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学ぶことは当たり前ではないー日本にもある教育格差

2017.8.8

こんにちは!
第6回LFA通信です。
LFA通信では今回と次回、2回にわたって”教育格差”をテーマに取り上げます。

この「教育格差」という言葉、実はLFAのロゴにも入っています。lfa_logo_fin-001
私たちLFAは「教育格差を終わらせる。」を掲げて活動しています。

でも、教育に”格差”なんてあるの?と疑問に思う方もいるでしょう。
義務教育が整備されて、9年間も、日本全国で等しく教育を受けられるじゃないか。
義務教育じゃない高校だってほぼみんなが行っているし。
そんな日本に教育の”格差”なんてあるの?
そもそも、”格差”が生まれるのは本人が頑張って勉強しなかったからじゃないの?

こうした意見もあるかもしれません。

しかし、日本の教育の現状を見てみると、そこには明らかに”格差”が生じています。
しかも、その”格差”の裏には、子どもの貧困と同様に本人の努力だけではどうしようもない現状があります。

今回は日本にある”教育格差”の現状と、その背景について考えていきます。
まずは教育格差の現状について、学力や進路の面から例を挙げていきます。


■”誰にとっても当たり前”の進路なんてない

皆さん、小学生のころを思い出してみてください。
授業がひと段落すると、確認テストがありましたね。
勉強したことをしっかり復習して確認テストを受けたと思います。
しっかり勉強したのに、思うような結果が出ない…と悩んだこともあるでしょう。

でも、そんな自分の頑張りとは関係のないところで点数が決まっているかもしれないとしたらどう思いますか?

このグラフをご覧ください。
家庭の社会、経済的背景と学力の関係
(出典:お茶の水女子大学「文部科学省委託研究 平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」https://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_summary.pdf)
(小学6年生・国語(基礎)での調査結果。勉強時間は平日1日あたりの学校の授業以外での学習時間)

このグラフは家庭環境と学力の関係を表しています。
グラフの横軸の項目は”SES”と言って、家庭の所得・父親の学歴・母親の学歴を基に家庭の社会経済的地位を点数化したものです。
グラフでは左から右にかけて順にその点数が高くなります。言葉を選ばなければ、右に行くほど親の学歴や所得がいいと考えられます。
グラフを見ると、右に行くほど点数が高くなっていることがわかります。
どんな家庭環境に置かれたかによって学力が異なってきます

さらに、時間と得点の関係に注目してください。
owest SES の子どもが家庭で3時間以上勉強した時の得点(58.9)よりも Higher SES で全く勉強しない子どもの得点(60.5)の方が高くなっています。

頑張って勉強すればいい点数がとれるわけではなく、子ども自身の努力を示す”勉強時間”よりもSES、つまり”家庭の背景”の方が大きい影響力を持つことがわかります。

冒頭で高校進学率の話をしました。
日本の義務教育は小学校・中学校までですが、確かに高校への進学率は全体では98.1%です。
この数字だけ見るとほとんどの人が高校に行っている、高校進学は当たり前のことのように思われます。
しかし、高校への進学率について生活保護世帯の状況を見てみるとどうでしょうか。

【表:高校進学の内訳】

全体 生活保護世帯
全日制高校 94.1% 72.6%(※1)
パートタイム(※2) 3.7% 16.6%
専修学校 0.3% 1.6%
高校進学率 98.1% 90.8%

(出典:全体は文部科学省「教育指標の国際比較平成21年度」、生活保護世帯は「子どもの貧困対策大綱」(2013年データ))
(※1.全日制高校、中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部を含む/※2. 定時制高校、通信制高校)

この表を見ると、高校進学率ではそこまで大きな差はないものの、どのような高校に進学するかが大きく変わっています。
どんな高校を選ぶかは本人の自由です。この高校に行くべきだ、という進路があるわけではありません。
しかし、こんなにも数字に開きがあるということは、どんな家庭環境で育つかによって選択肢が決められている、ということがあるかもしれません。
当たり前に行くと思われている高校でも、家庭環境によってどんな高校に通っているかは大きく違い、その差が深まることで問題が見えにくくなっています

 

ここまで小学校の学力、高校進学率の例を挙げてきました。最後にその先の大学進学率について考えてみましょう。
下のグラフをご覧ください。

両親年収別の高校卒業後の進路
(出典:金子元久(2009)「「所得格差」が「教育格差」を生む冷酷な現実」http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091013/188159/?P=1より抜粋)

このグラフは家庭の年収別の高校卒業後の進路を示しています。
「4年制大学」の項目と「就職など」の項目に注目すると、年収によって大幅に数値が違います。
例えば、年収200万円以下の家庭では4年制大学希望が30%弱ですが、1200万円超の家庭ではその半分以上の割合、60%以上です。
このグラフを見ただけでも、年収に応じて高校卒業後の進路が大きく異なることがわかります。

さらにこのグラフと合わせて下のグラフをご覧ください。経済的ゆとりがあれば子どもにさせてあげたいこと

(出典:上記グラフと同様)

このグラフは、両親に「経済的にゆとりがあればさせてあげたいこと」を示しています。
「就職より進学」という項目は年収が低いほど高くなります。
一方で「現在の希望から変更なし」の項目は右肩上がりです。所得に余裕のない家庭では、希望通りの道を子どもに歩ませることが難しい状況があります。

ここまで、小学生の学力・高校進学率・高校卒業後の進路の状況を見てきました。
9年間の義務教育があり、その後の高校や大学への進学率も高く、教育を受けることは当たり前のように見えるかもしれません。
しかし、子どもの受ける教育や得られる学力、そして進路には子どもの置かれた環境が大きく影響しており、必ずしも本人の努力や希望だけではどうしようもない現状があることがわかりました。

では、なぜこのような違い・格差が子どもたちの間にあるのでしょうか。
ここまで、子どもたちの家庭環境や経済状況と学力の関係を多くとりあげました。次からは家庭環境や経済状況がなぜ学力・教育の違いを生むのかということに注目しながら、教育格差の背景を考えてみましょう。

 

■教育は平等に用意されていない

まず一つ挙げられることが”教育費の自己負担率が高い”ことです。
このことは長らく指摘されてきていることで、これを読んでいるみなさんの中にもお気づきの方がいるのではないでしょうか。

この教育費の自己負担率の高さについて特に注目すべき点は、幼稚園や保育園などの就学前教育と大学などの高等教育の自己負担率がとても高いことです。
教育投資における一人あたり公財政支出
(出典:橘木俊詔(2009)『日本の教育格差』p.150より抜粋)(※このグラフの5カ国とは、ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ・日本)

このグラフを見ると、実は日本の義務教育段階に対する財政支出は平均的です。
その一方で就学前教育(平均の半分以下!)と高等教育に対する支出が大変低くなっています。

その中でも、特に大学の授業料はここ数年で大幅に値上がりしています。
下のグラフをご覧ください。
高等教育費の高騰
(出典:文部科学省(2009)「教育安心社会の実現に関する懇談会 報告書」)

大学の授業料の値上がりは物価の上昇を考慮に入れても異常なほどです。
このことは先に見た高校卒業後の進路のグラフと無関係ではないはずです。
また、この急激な授業料の値上がりが家計に無理をさせていたり、学生の学習・生活環境を厳しく(ブラックアルバイト等)しています。(小林雅之(2009)『大学進学の機会』)

ここまで見て、でも”義務”である小学校や中学校がちゃんと保障されているならいいんじゃないの?と思う方もいるかもしれません。
しかし、この義務教育の中でも”格差”が進行しています。
ここで、小中学生の教育費の内訳を見てみましょう。
小学生の学習費内訳中学生の学習費内訳
(出典:文部科学省「平成26年度子供の学習費調査」)

ここで注目してもらいたいのは”学校外活動費”の項目 です。この項目は、いわゆる塾や習い事にかかる費用です。
表を見ると、公立の小・中学校に通う子どもの学習費のうち、最も比率が高いのがこの”学校外活動費”です。
塾や習い事全般と考えると、子どもたちがどんな経験ができるのかはその家庭の経済力によって大きく変わってしまうと言えるでしょう。
また、小学校の学校外活動費のほとんどが塾の費用であることも指摘されています(橘木(2010))。

義務教育で学力が保障されているといっても家庭の経済力に応じて受ける教育内容に差が出てしまっています。
確かに、学校で教育を受けることである程度の学力は保障されているでしょう。しかし、学校外まで目を配ると、置かれた環境によって学ぶことが大幅に変わります。社会は、すべての子どもたちに適切に・平等に学力を保障できているとは言えないのではないでしょうか。

 

■見えない格差

また、”お金”という目に見える形とは別に、なかなか見えにくい・わかりづらい環境も子どもたちの間に格差をもたらしています。

例えば、家にどんな本がどれだけあるのかという違いがあります。
目に見えにくいことですが、この違いはその家庭にどれだけの知識があるのか、どんな価値観や行動の仕方が重んじられるのかを表します。
知識や価値観、行動の仕方=文化の違いも、環境によって様々です。
こうした蓄えのことを”文化資本”と呼んだりします。
この文化資本の違いも子どもたちに影響を与えます。

また、進路のように人生の分岐点に立った時、どういう道に進めばこんな未来が待っている、進みたい道のためには何が必要か、といった”情報”も重要です。
情報については、所得が低い人ほど適切な情報を得られていないという指摘があります(小林雅之(2014)「教育機会の均等」耳塚寛彰編『教育格差の社会学』)。
持っている知識や情報が違うということは、将来に対するビジョンの持ち方に関わってきます。現代では親が持っている子どもの将来ビジョンに違いがあること、しかもそれが幼少期から積み重なっています(金子元久(2009)「『所得格差』が『教育格差』を生む冷酷な現実」)。
この社会では得られる情報にも格差があり、将来の選択肢の格差を招いています

 

ここまでたくさんの例を挙げて本人の努力や希望とは関係のないところで教育格差が進行していることをお伝えしてきました。

教育社会学者の広田照幸氏はこうした現実について重要な指摘をしています。
「あたかも子供自身が生まれつき「勉強好き/勉強嫌い」のように見えるのだが、実際には、社会的要因ー生活環境が大きく影響している」
(広田照幸(2009)『格差・秩序不安と教育』)
その子どもの点数や進路希望を見ただけだと、私たちは”ああ、この子は努力していないんだな””将来のこと何も考えていないんだな”と思ってしまうかもしれません。
しかし、その裏で、子ども本人の意思とは関係のないところで様々な差や制限が生じています。
そして、学力などの形で少しずつ子どもに影響を与え、人生の進む道を左右しているのです。

 

■どこまでも続いていく教育格差

最後に、教育格差が将来的に人々や社会に及ぼす影響を考えてみましょう。
実は、最終学歴と人々の生涯年収には関係があります。

学歴と年収

このグラフを見ると、例えば男性の中卒と大卒では、生涯年収に約8,000万円ほどの差があります。最終学歴の違いが年収を大幅に変えているのです。
教育格差は子ども時代に影響を与えるだけではなく、年収という形で生涯にわたって人々の暮らし・生活環境に影響を与えています。
ここで今回のLFA通信の初めにお伝えしたことを思い出してみると、今の日本では家庭の社会経済的背景が子どもに大きな影響を与えていました。
このように、格差は世代を超えて連鎖していきます。格差は再生産されていくのです。

負の連鎖
教育格差は明らかに存在しています。
そして、この社会ではその格差が連綿と続いていくのです。

 

さて、様々なデータを紹介してきた今回のLFA通信ですが、教育格差の現状と背景を考え、社会的要因によって教育格差が引き起こされていること、そしてこの格差は連鎖していくことを見てきました。
次回はなぜ教育格差がこんなにも問題となるのかを考えます。
なぜこうした違いは”格差”として問題視されるのでしょうか。
この格差を解消するにはどうすればいいのでしょうか。
現状を理解した今だからこそ、教育格差についてより深く考えていきましょう!
(次の記事はコチラ!)


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