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広がる学習支援

2017.9.26

こんにちは!
第9回、LFA通信です。

これまでLFA通信では「子どもの貧困」、「教育格差」、「教育保障」と、少し大きな教育のテーマを扱ってきました(詳しくは第3回~第8回を読んでみてください!)。

今回はより実践的で、そしてLFAの活動の一つである「学習支援」についてとりあげます!

LFAでは、経済格差に紐づく教育格差に問題意識を持ち、様々な困難を抱える子どもたちに学習支援を行っています。
LFAが行っている学習支援がどういうものなのか、そしてLFAが学習支援でどんなことを大事にしているのか、といった”LFAの学習支援”については第1回第2回のLFA通信でお話しをしました。


今回は、学習支援という取り組みが日本全国でどういう動きをしているのかについて紹介していきます。

子どもの貧困への注目の高まりとともに、全国的に学習支援の取り組みがどんどん増えています。
2013年には国会で「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立しました。
その中でも教育に関する条項はこのように定められています。

第1条 この法律は、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子どもの貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする。

第10条 国及び地方公共団体は、就学の援助、学資の援助、学習の支援その他の貧困の状況にある子どもの教育に関する支援のために必要な施策を講ずるものとする。

子どもの将来が生まれ育った環境に左右されることがないよう、教育の機会均等を重視し、それを実現するための施策の必要性も説いています。

さらに、この法律を受けて、2014年には「子供の貧困対策に関する大綱」が定められました。
その中で教育は重点を置く施策の一つとされ、学習支援を含む教育に関する様々な施策があげられています。
子どもの貧困対策と教育が結び付けて考えられ、その手段として学習支援が大きな注目を集めています。

このように大きく国全体でも動いている学習支援事業ですが、現在様々な法律や条例があったり、多くの事業主体がいたりと全容がわかりづらいところもあります。
また、取り組みが拡大する中で事業として課題にぶつかることもあります。
今回は、学習支援がどのように広がっているのか、また事業としてぶつかっている壁や、その壁を乗り越えるために何が必要か考えていきます。

■学習支援の多様な関係者

先ほど、学習支援が政策レベルでも取り上げられていることをお話ししました。
では、どのような管轄で、またどのような目的で学習支援は取り組まれているのでしょうか。

まず、管轄の一つに厚生労働省があります。
厚生労働省では「生活困窮者自立支援法」という法律に基づき、「貧困の連鎖を防止する」ことを目的として学習支援事業を行っています。
この学習支援事業を行うかどうかは各自治体の判断に任されています。
学習支援を行う場合、自治体に対して、事業全体にかかるお金のうち、2分の1を国が負担します。

また、文部科学省でも、「学習が遅れがちな中学生」を対象とする学習支援を行っています。
この学習支援の目的も、厚生労働省の管轄と似ており、「学習機会の提供による貧困の負の連鎖を断ち切ること」を目指しています。
学習支援をやる場合、自治体に対して、事業全体にかかるお金のうち、3分の1を国が負担します。
この学習支援には「地域未来塾」という名前がついています。
他の学習支援でももちろん地域の大人たちの力を借りていますが、この学習支援では特に地域住民の協力を得ることを強調しています。

その他にも、ひとり親家庭の子どもを主な対象とした生活・学習支援事業(厚生労働省)や、学習支援を含めた地域の資源を活かした子どもの貧困対策を支援する地域子供の未来応援交付金(内閣府)があります。

学習支援に関する法律や管轄省庁はこのように様々あります。
また、その対象や目的も似ているところもありますが、生活困窮者を対象とするのか、地域の協力を強調するか、など、少しずつ違いがあります。

子どもの貧困対策の施策と担当省庁(出所:厚生労働省(2018)第3回:生活困窮者自立支援のあり方等に関する論点整理のための検討会 「各支援策のあり方について(家計相談支援事業、貧困の連鎖防止、住居確保給付金、一時生活支援事業)」より抜粋)

国レベルでも多くの関係者によって取り組まれている学習支援事業ですが、自治体におりてきたときに、同じような事業なのに管轄が違うために事業同士で連携できていないといった課題があります。
また、国で管轄が違うものが自治体におりてきたときに、地方自治体の管轄が福祉部局だけ、もしくは教育委員会だけ、というように一つの部署しか担当せず、負担感が大きくなるという課題もあります。

今後は、政策同士の効果的な連携や、各政策の整理、そしてそれぞれの事業を所管する部署が持っている専門性やネットワークを活かして事業を効果的に展開することが必要になるでしょう。

■広がる学習支援

学習支援には様々な管轄・関係省庁がありました。
ここからはその中でも厚生労働省が管轄する、「生活困窮者自立支援法」に基づく学習支援事業についてみていきます。

「生活困窮者自立支援法」に基づく学習支援事業の全国的な状況について調査したものとしてさいたまユースサポートネットによる「子どもの学習支援事業の効果的な異分野連携と事業の効果検証に関する調査研究事業」というものがあります(2017年)。
この調査の結果を中心に、全国的な状況について考えていきましょう。

2016年度の調査では、学習支援事業を「実施済み」と回答した自治体は
48.7%です。
前年度の32.2%から実施率は上がっています

学習支援事業の実施率
(出所:さいたまユースサポートネット(2016)「学習支援事業の運営実践事例集」(2015年度分)、さいたまユースサポートネット(2017)「子どもの学習支援事業の効果的な異分野連携と事業の効果検証に関する調査研究事業」(2016年度分)より筆者作成)

また、その他の自治体でも「2017年度実施予定」と回答した自治体は7.2%、「実施検討中」と回答した自治体は19.7%おり、今後も取り組みは拡大していくでしょう。
学習支援事業の実施状況
(出所:さいたまユースサポートネット(2017)より筆者作成)

学習支援の増加の背景には、やはり最初にお話しした、学習支援の機運が高まっていることが考えられます。
様々な法律や政策によって後押しされ、新聞やTVの報道でも取り上げられるなど今まさに学習支援に注目が集まっています。
自治体もお互いに取り組みを参考にしあうことで、学習支援事業を始めたり、より良い事業の形を模索したりしています。

また、「生活困窮者自立支援法」に基づく学習支援事業には国の補助金が出る、という点も重要です。
さいたまユースサポートネット(2016)の調査によれば、学習支援事業の開始時期は2015年度が第1位、次いで2016年度が第2位になっています。
生活困窮者自立支援法の施行開始は2015年度からなので、補助金の影響を無視することはできないでしょう。
広がる学習支援(第9回)

■自治体がぶつかる壁

現在、大きな広がりを見せる学習支援事業ですが、一方でいくつかの課題もあります。

学習支援事業の”課題”ですが、その”課題”の切り口としては事業を担う自治体、現場で学習支援を行う団体、学習支援の利用者である子どもやその保護者、補助金を出し日本全国に対して責任を持つ国、など様々あります。
ここでは、公教育を実際に支えることとなる”自治体”に引き続き注目していきます。

さいたまユースサポートネット(2017)の調査によれば、自治体の課題は①「人員資源の確保」②「利用者の確保」③「アクセス支援」の大きく3つにわかれるそうです。
一つずつ詳しく見ていきましょう。

■①人員資源の確保:学習支援を支える人たちの不足

人員資源の確保は、自治体が直面する課題のうち最も深刻な課題です。
さいたまユースサポートネットの調査でも、「学習ボランティアの確保・増員が必要」や「実施するための人員や団体の確保が難しい」という回答が多くあります。
学習支援事業を実施していない自治体の実施しない理由の第1位にも「実施のための人員や団体の確保」がきます。
ここで、注目していただきたいのが、自治体の人口規模別に見た学習支援事業の実施状況です。
下のグラフをご覧ください

自治体の人口規模別学習支援実施状況
(出所:さいたまユースサポートネット(2017)より筆者作成)

このグラフによると、人口50万人以上の自治体ではすべての自治体が学習支援事業を実施しています。
その一方で、人口10万人以上50万人未満の自治体では73.2%、人口10万人未満の自治体では32.3%となっています。
自治体の人口規模が大きいほど実施率が高い傾向が見られます。

ボランティアの重要な担い手となる大学生について考えてみましょう。
大学はやはり都市部やアクセスのいいところに集中しています。
その結果、大学生は、人口規模の大きな自治体に集中しがちになります。
逆に、人口規模の小さいところではそもそも大学生がおらず、ボランティアの担い手が少ない、という状況になります。
大学生に限らず、新しく学習支援を行う団体を立ち上げようと思っても、やはり人口規模が小さいと人はなかなか集まりません。

このような地域差も相まって自治体は課題に直面することになります。

また、学習支援の担い手に望まれるのはボランティアだけではありません。
学習支援を利用する子ども・保護者は学習に留まらない、様々な困難を抱えています。
そのため、ケースワーカーなどの専門的な支援ができる人の増員も必要となっています。

学習支援を支えきれない

■②利用者の確保:子どもたちが集まらない

事業の対象となる子どもたちがそもそも集まらない、ということも深刻な課題です。

利用者確保の具体的な課題として「子どもへの情報発信」が挙げられます。
学習支援事業を始めても、子どもたちに学習支援事業があるという情報が伝わり、来てもらわなければ意味はありません。
各自治体も、対象とする子どもたちへの個別の訪問や呼びかけ、学校でチラシを配布して宣伝するなど様々な工夫を凝らしています。

しかし、教育と生活困窮者の支援をつなげる、という新しい取り組みということで、まだまだ学校などの関係機関との連携・接続が難しいという状況があります。

自治体では、主に福祉部局が学習支援事業を所管しています。
そのため、子どもの情報はなかなか手に入りにくい、子どもとつながりにくい、という問題があります。

その他にも「保護者の理解や協力の確保」が挙げられています。
子どもだけではなく、その周囲までいかに巻き込んでいくのか、ということも重要でしょう。

子どもたちが集まらないということは、支援から漏れてしまっている子どもがいるということです。
情報発信をし、学習支援に来る意味を伝えていかなければいけません。

利用者との関連で考えると、欠席者へのフォローや、継続的な参加を課題として挙げる自治体もあります。
一度支援の現場に来てくれたからといってそれで問題が解決するわけではありません。
ただ参加すればいいわけではなく、支援を通じて一緒に日々を積み重ねていかなければいけません。

また、生活困窮者自立支援法に基づく学習支援事業は、その対象設定が自治体に任されているため、対象の設定に悩む自治体も多いです。
単純に生活保護世帯の子どもを対象とすればいいのだろうか。
そうすると、本当は支援が必要なのに、支援から漏れてしまう子どもがでてくる。
しかし、生活困窮者の定義もあいまいです。
全国の事業を見ると、生活困窮者とそれ以外の人を分けることで新たな差別を生み出すとして自治体内の子どもを全て対象にする、という自治体もあります。
とはいえ、事業の性格から、そうした選択をすることが難しい自治体も多くあります。

人が集まらない

 

■③アクセス支援:学習支援の場に通えない

最後に「アクセス支援」を挙げます。
「アクセス支援」と言うと少し耳慣れない言葉ですが、学習支援の現場に通う際にかかる時間や費用、安全の確保を支援することです。
意外に感じるかもしれませんが、重要な課題です。

まず、具体的な課題として「安全の確保」が挙げられます。
学習支援は学校外での学習です。
そのため、夜遅くなることもあります。

こうしたことから、学習支援の教室まで子どもたちが来るための支援が必要になります。

より深刻な課題は「アクセスのよい活動場所の確保が難しい」、「学習支援教室に通う交通手段がない」といったことがあります。
自治体によっては、対象となる子ども全員が通える範囲に学習支援の教室を設けることが難しい場合があります。
こうした事態に対処するために、北海道などでは訪問型の学習支援を行っている場合もあります。

一見、学習自体とは関係がなく見落とされがちな問題ですが、学校外の活動になる学習支援事業にとって、物理的なアクセスにかかる時間や費用、安全に通うことも重要な問題になるのです。アクセスが大変

■先立つものは…

ここまで、自治体が学習支援事業で直面する課題について考えてきました。
実はこれらの課題に共通することがあります。
それは”財源”です。

ボランティアや職員を集めるお金がない…。
子どもたちを呼び込む広報にかけるお金がない…。
教室へのアクセスを支援するお金がない…。

その他にも教材費や場所代など、様々な場面でお金が必要になります。
こうしたことを見越してか、現在学習支援を実施していない自治体の実施しない理由の第2位には財源が挙がっています。

また、学習支援の広がりのところでも述べましたが、生活困窮者自立支援法の施行開始後に多くの学習支援事業がスタートしていることも見逃せません。
国から補助金が出る、ということの影響を無視することはできないでしょう。

行政の事業としてやる以上、事業にかかるお金、そしてその出所となる財源の問題は避けては通れない問題です。
そして、無償で行う学習支援事業では、この問題は常に考えなければいけないことです。

■学習支援を広げるだけでいいのか

さて、今回は学習支援事業が日本全国でどんな動きを見せているのかを考えてきました。
学習支援事業は全国的に広がっています。
その一方で、前述した通り、事業としての課題もあります。

そんな学習支援ですが、今ある課題を克服し、”ただ広げていく”ことだけが大事なのでしょうか。
子どもの貧困について研究している松村智史氏は、学習支援の研究について、研究蓄積が少ないことや、子どもの権利性や主体性の視点を欠いていること、福祉・教育政策上の意義・位置づけが十分に考察されていないことを指摘し、「その結果、子どもの学習支援は、その経緯や位置づけが十分に考察されることがないまま、各地で取り組みが拡大している」と言います。(松村智史(2016)「貧困世帯の子どもの学習支援事業の成り立ちと福祉・教育政策上の位置付けの変化」『社会福祉学』)
なかなかに厳しい指摘です。

もちろん、学習支援の現場では常に子どもと向き合っているのであり、実践は蓄積され、子どものことを十分に考えているでしょう。
しかし、政策としてどんな政策なのか、事業としてどんな性格を持っているのか、ということは曖昧になっている、ということは松村氏の指摘通りなのではないでしょうか。

松村氏はこの論文の中で、学習支援という政策は当初、子どもの自立を促す”福祉政策”として始まったけれど、次第に子ども自身の育成や学びという視点に立つようになり、現在は教育機会の保障という意義を持つようになったと述べています。
おおよそ3つの性格(自立支援・成長と学びの提供・子どもの権利保障)がここでは述べられていますが、このうちどの性格を意識するかによって、事業の形や目指すことは大きく変わってくるはずです。

また、子どもの貧困や教育格差は単に学習にとどまらない、様々な問題があることも忘れてはいけません。
学習支援事業が立ち向かう課題に対して、学習支援という施策でどう対応していけるのか。
できないのであれば、他の組織や人に協力してもらうことも必要でしょう。

ただ、この学習支援事業は子どもたちにいい影響を与えていることも事実です。
この事業を通じて、子どもたちに何を残したいのか、どんな社会にしたいのか。
そういう視点を持ちながら、事業に取り組み続けることが必要ではないでしょうか。

次回のLFA通信は教育現場について考えていきます。

子どもに一番近いはずの教育現場ですが、今そこでは子どもと向き合いきれない現状があります。なぜそうなってしまうのか、本当はどんなことを教育現場はやりたいのか、一緒に考えていきましょう!
(次の記事はコチラ!)


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