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なぜ学習支援は行われるのか

2017.10.25

こんにちは!
LFA通信です。

LFA通信ではこれまで、学習支援と学校現場、二つの教育実践の領域についてとりあげてきました。
第9回のLFA通信では、学習支援は現在全国的に広がりをみせていることをお伝えしました。
一方、事業として課題があることもわかりました。
また、第10回のLFA通信では、学校について取り上げるなかで、学習支援の限界や落とし穴についても触れました。

そこで、今回のLFA通信では改めて学習支援についてとりあげます。
現在広がりを見せつつも、場合によっては壁にぶつかったり、思わぬ落とし穴のある学習支援ですが、もともと事業・政策としてどんなことが目指されてきたのでしょうか。
また、学習支援をすることで現場ではどのようなことが起きているのでしょうか。

事業・政策と現場、二つの視点から学習支援について考えていきます。

■学習支援の始まり

さて、学習支援は事業・政策としてどのような意義があると考えられているのでしょうか。
ここでは、学習支援の性格の変遷を見るために、国会や行政の審議、新聞報道を分析した松村智史氏の論文を参照します。(※1)

松村氏によると、子どもの貧困問題において教育は、「世帯の自立」を促すための手段としてとらえられていたといいます。
2004年に厚生労働省の委員会で学歴・教育と貧困に強い関連性があることが指摘されました。
そこで、貧困の再生産防止の手段として教育があげられるようになったのです。
具体的な手段は高校に進学することでした。
義務教育を終えた貧困世帯の子どもたちがそのまま就職しても、やがてまた生活保護に戻ってきてしまう。そうしたことが問題視されるようになったのです。
子どもたちは高校に行って就労することで、やがて自立していくという考えから、生活保護制度の中で高校への就学を支援することなどが提言されました。

ここで注意しなければならないことは、このとき”誰が”自立すると考えられていたかということです。
実は、当時の議論では子ども自身ではなく、世帯が自立することが期待されていました。
子どもが自立することで、その子どもも含めて、生活保護を受けているその世帯がやがて自立していく、と考えられていました。
このような流れのなかで、貧困世帯の子どもたちに対する教育・進学支援は子どもがいる「世帯の自立」を促す福祉政策としてスタートします。
この点について、松村氏は「子ども自身の学びや成長といった視点は見当たらない」と指摘します。

このような流れの中で、子どもの貧困対策のための学習支援が取り上げられるようになりましたが、当初、学習支援もまた「世帯の自立」につながることが期待されていました。
しかし、学習支援に関する議論では次第に、従来の”経済的自立”という話題だけではなく、子どもの”日常・社会生活における自立”ということも触れられるようになりました。
子どもの経済的自立だけでなく、社会生活に必要なことを身につけた上で自立することで、世帯の自立につながる、という認識が出てきたのです。
こうした子どもの生活・日常という話から、支援を受ける子ども自身にも目が向くようになりました。
このことは、子どもの「健全育成」を学習支援の意義としてあげられるようになったことに現れます。
松村氏は2009年に出された「学習支援費の創設及び子どもの健全育成支援事業の実施について」という厚生労働省の通知、それを受けたナショナルミニマム研究会での発言を挙げて、「子どもを世帯の自立』の『手段』として捉えるだけでなく、子どもの『健全育成』という意義が強調されるように」なったとしています。

■社会情勢の影響を受ける学習支援

さて、このころ「新しい公共」という理念が出てくるようになりました。
その中で、社会的居場所や社会的包摂といった、”社会のつながりに参加する機会を開く”考えが盛んになりました。
その流れを受けて、学習支援も「社会的な居場所」という意味が求められるようになりました。
子どもが社会の一員として参加し、支えあう場所、そのような居場所で学んだり社会性が身につくことが自立につながり、貧困の連鎖が防止されると考えられました。

また、若者の非正規雇用増加や教育と就労の接続が問題化する2012年頃になると、「就労の準備」という意味も付与されるようになります。
当時、高校に進学するだけで自立につながると言えるのか、という指摘から、テストなどで測れる学力だけでなく、心理面や対人面に配慮した支援も必要ではないか、それによって就労や自立につながるのではないかという考えがうまれました。
その結果、就労・自立につなげることを目的として、心理面や対人面の能力を含む学力が学習支援の場で求められるようになりました。

こうした流れについて、松村氏は「従来語られてきた狭い意味での学力と、『健全育成』や『社会的な居場所』としての意義が結実した役割が、学習支援に期待されるようになっている」と見ています。

■教育の機会均等を保障する学習支援

学習支援はここまで見てきたように、福祉的な側面からはじまり、様々な意義が付け加えられる中で子ども自身の学びや成長という視点が生まれてきて、学力や能力の保障といった教育的な意味が加わるようになりました。

そして、2013年に子どもの貧困対策法が成立します。
この法律の中では”教育の機会均等”が理念として掲げられています。
その後閣議決定されたこの法律に関する大綱では教育が重点分野とされ、その方策の一つとして学習支援が挙げられています。
松村氏はここにきて、政策の中で教育の機会均等という教育保障の必要性が認められ、福祉的支援と教育的支援が実質的に連携する素地が生まれたとしています。
学習支援事業の変遷
(松村智史(2016)を参考に、LFA作成)

貧困世帯の子どもたちへの学習支援は、子どもや貧困への理解の深まりや、時々の社会情勢に影響されながら意義が付け加えられ、変容しながら成り立ってきたのです。

■どんな目標をもって運営するのか

さて、ここまで事業・政策という大きな視点から学習支援を見てきました。
ここからは、日々の活動を行っている現場から学習支援を考えていきます。

研修風景
事業の現場では、学習支援という事業をどのようにとらえているのでしょうか。
さいたまユースサポートネットが行ったアンケート(さいたまユースサポートネット(2017)「子どもの学習支援事業の効果的な異分野連携と事業の効果検証に関する調査研究事業」)の中から、実施団体の考える重点目標に関する項目を見てみましょう。

今回取り上げるアンケート項目では、①居場所づくり②基礎学力保障③生活支援④進路相談、の中で特にどの領域に力を入れているのかを聞いています。
全体の傾向としては「居場所づくり」、もしくは「基礎学力保障」を重視している団体が多い、という結果になりました。
先ほど見た、学習支援の性格の最近の動きに近いところがあります。

しかし、この調査結果を受けてさいたまユースサポートネットは「その(※調査結果のこと)内実は事業実施形態によって大きく異なっている」と指摘しています。
例えば、訪問型の支援を行っている事業では「居場所づくり」という意味合いが弱くなり、「生活支援」や「進路相談」という意味合いが強くなります。

このように、事業の重点目標は実施形態(教室のみ、教室+訪問、訪問のみ、等…)に影響される面があります
そしてこの実施形態も予算やその事業を行う地域の環境などに影響されます

予算が集まらないから個別訪問がしたくてもできない…
子どもたちが集まりやすい場所がなく教室を開きたくても開けない…

現場では、様々な制約の中でより良い方法を模索しながら事業が設計されています。

■子どもたちの実感

では、実際に学習支援を受けている子どもたちは支援をどのようにとらえているのでしょうか。
ここでは先ほどのさいたまユースサポートネットのアンケートの中で、学習支援教室に通う子どもたちに対して行ったアンケートを見ていきます。

子どもが学んでいる
子どもたち自身は、学習支援の教室に通うことで、どんな変化を実感しているのでしょうか。

教室を利用することで良い変化を感じた項目からは、5割以上の子どもが、友達や大人との対人関係がよくなったことや、自分の意見を他者に伝えられるようになったこと、学力が上がったり生活が楽しいと感じられるようになったことがわかります。(※2)

このように、学習支援によってさまざまな良い変化が起きています。

約3人に一人の子どもが学校に通うことに前向きになっているところも注目するべきところでしょう。(※3)
前回の記事でもお伝えしたように、学習支援それだけでは限界があります。
そのため、学校、さらには社会に子どもたちをつなげていくことは、学習支援が果たす大事な役割のひとつです。

ただし、これらの結果は調査対象となった子どもが通っている学習支援団体によって異なるそうです。
支援の意味や結果は現場によって異なります。目の前の子どもに向き合う中で必要な支援ややるべきことが見えてくるのではないでしょうか。

■学習支援にできること

さて、今回は改めて学習支援の役割や意味について考えてきました。
学習支の事業・政策としての意味は、社会の状況に影響されながら変容・付け加えられてきました。
その意味は「世帯の自立」「健全育成」「社会的居場所」「就労準備」「教育機会の均等」などです。これらが社会の状況に影響されながら学習支援に付与されてきたのです。
後半では、学習支援の現場から、学習支援の役割や意味を考えました。

第3回でお伝えしたように、学習支援にやってくる子どもたちは様々な困難を背負っています。
そのため、教育領域や福祉領域と限定せず、その子の生活全体に向き合い、思いに応え、結果を出すことが必要です。
また、目の前の子どもに正面から向き合うということは、貧困・格差を生み出す社会に向き合うということでもあります。
子どもの背景には貧困・格差を生み出す社会があること(第4回)に気づき、そもそも、子どもの貧困、教育格差がある社会に何か問題があるのではないかと考える(第5回第7回)。これも学習支援に必要な役割ではないでしょうか。

学習支援は時代によってその意味が変わってきました。
そしてこれからも変わっていくかもしれません。
形態が今よりも多様になって、教室や自宅訪問、通信支援など様々な手段が当たり前になるかもしれません。
内容も多様になって、今までの個別学習だけではなく、グループワークを取り入れたり、プログラミング教育やスポーツ、芸術など様々な分野の学びが行われるかもしれません。

しかし、根本には変わらない意味や役割があります。
それは目の前の子どもに当事者として向き合い、問題の解決方法を模索し、子どもたちの思いに応えていくことであり、その中で改めて社会の在り方を問い直していくことではないでしょうか。

教師と子ども(加工済)
次回のLFA通信はLFAの学習支援の現場ではどんな”学習”をしているのか、どんなことを目指しているのか、というLFAの考えをお伝えしていきます。
(次の記事はコチラ!)

(※1)松村智史(2016年)「貧困世帯の子どもの学習支援事業の成り立ちと福祉・教育政策上の位置付けの変化」(『社会福祉学』)
(※2)具体的には、「友達との仲の良さ」「大人と気軽に話せるようになった」「『わからない』『教えて』と言えるようになった」「友達に自分の意見を言えるようになった」「勉強がわかるようになった」「以前より楽しいと思う事が増えた」といった項目をさす。
(※3)具体的には、「学校に行くのが嫌ではなくなった」「学校の行事を楽しいと思うようになった」といった項目をさす。


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