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【東京大学入学式の祝辞で語られたこと】〜女性の置かれる立場と男女の格差〜

2019.4.26

 こんにちは。Learning for All 職員の福田です。今回は先日の東京大学入学式にて上野千鶴子名誉教授より行われた祝辞について考えていきたいと思います。

 様々なニュースやネット記事でも取り上げられ、賛否両論が飛び交っています。言及するのがためらわれるほどにそれ自体で読む価値を持ち、議論するべきトピックをあまりに多く与える文章です。祝辞自体が非常に示唆に富むものですので、まずはこちら(東京大学のリンク)からその全文をぜひご覧ください。

 今回のブログでは主に冒頭の部分に焦点を絞って、この祝辞の内容について考えていきます。特に「女性であることが学力形成、進路選択にどう影響するか。その背景にあるものは何か」という観点でこの祝辞を掘り下げてみましょう。

男女の学力差

―女子学生が男子学生より合格しにくいのは、男子受験生の成績の方がよいからでしょうか?  (中略) 事実、各種のデータが、女子受験生の偏差値の方が男子受験生より高いことを証明しています。―

 男女に学力差がないことは上野氏の言うように様々なデータが示しています。2015年に行われたPISAの結果によれば、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野において男女の正答率は下のグラフのようになりました。


(出所) PISA(2015)より作成

 また、調査対象国の70%で女子の方が男子よりも成績がいいという結果になっています。このように、世界的に見ても女子と男子では成績に差はなく、むしろ女子の方が学力が高い傾向も見られます。

男女の大学進学率と希望進路の違い

―4年制大学進学率そのものに性別によるギャップがあります。2016年度の学校基本調査によれば4年制大学進学率は男子55.6%、女子48.2%と7ポイントもの差があります。この差は成績の差ではありません。「息子は大学まで、娘は短大まで」でよいと考える親の性差別の結果です。―

 先ほど見たように、男女に学力差はほとんど見られません。しかし、男女では大学進学率に大きな差があります。

 実は、「高等教育機関への進学率」だけで言えば男子と女子で差はありません。「大学・短大・専門学校」の合計進学希望率は男子で82%、女子で83%と、男女差はありませんが、「四年制大学」と「短期大学・専門学校」に分けた時にその差が明らかになります。


(出所) 東京大学「高校生調査」より作成

 東京大学が行なった「高校生調査」によれば、男子は四年制大学へ、女子は短大や専門学校へ行く割合がそれぞれ高いです。

 もう一点特筆すべきことがあります。さらに「家庭の収入」というフィルターを通すと、この男女差が特に低所得層で顕著であることがわかります。国立大学へ進む割合は性別や所得による差はほとんど見受けられないものの、私立大学への進む割合についてみると、低所得層で男女差が大きく見受けられることがわかっています。


(出所) 東京大学「高校生調査」より作成

 高等教育の選択において所得の格差が大きく、とりわけ女子についていえば「私立大学進学」か「短大・専門学校進学」かについては大きな所得格差が見られます。

背景にある考え

 男女共同参画社会基本法の施行から今年で20年です。例えば男性の育児休業取得率がここ数年でほぼ倍増していたり、少しずつその成果は見られるようになってきています。しかし、その男性の育児休業率も含め全体的な成果は目標から程遠いものがあります。詳しくは説明しませんが、こちらに関しては内閣府「第4次男女共同参画基本計画における成果目標の動向」に詳しく掲載されています。(内閣府のリンク)

 女性が、現在の日本でイメージされるような「女性らしさ」ではなく、「自分らしさ」を発揮して生きることができる社会には依然としてなっていません。
もちろん、裏を返せばこれは男性に「男性らしさ」が求められているということでもあります。男性もまたこうした価値観から必ずしも自由であるとは言えません。実際に、内閣府の調査では「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に男女ともに賛同する人が多いのも特徴です。


(出所) 内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」より作成

 また、女性の社会進出について政治家の問題発言がしばしば見られます。
例えば、数年前にはとある県知事が「女子にコサインは不要」と発言したり、最近でもとある大臣が「子どもを産まない方がおかしい」と述べました。それぞれ発言を撤回しましたが、こうした考え方が根深く残っていることは否めません。

 世界経済フォーラムの発表するジェンダーギャップ指数では、
経済、教育、健康、政治の4つの分野のデータから男女平等の進み具合を計測しています。2018年において日本は総合ランキングでは149ヶ国中110位、先進諸国の中では韓国に次ぐワースト2位で、G7では最下位です。

 一方、例えば男女平等ランキング1位になったアイスランドではどのように女性の社会進出が進んでいるでしょうか。アイスランドでは国会議員の約半数が女性で、2016年には新たに41歳の若さで女性の首相が誕生しました。また、2016年の「国際女性デー」に合わせて発表された男女の同一賃金義務化が2017年から施行されています。世界的に見ても、日本が男女間差別の大きい国であることがわかります。

「女性の貧困」

 さて少し祝辞の趣旨とはずれますが、 ここまでの話をLearning for All の課題意識にひもづけて話をしてみます。

 ここまで、「進学するまで」の時期で女性が被る不利益について考えてきましたが、「社会にでた後」でもこうした不利益が女性にしいられます。Learning for All が解決を目指す「子どもの貧困」は、こうした「女性の貧困」なしに語ることはできません。

 例えば、子どものいる家庭で母親が強いられる不利益にはどのようなものがあるでしょうか。

 いったん日本からはなれ、まずはOECDの調査を見てみましょう。下のグラフは、「男性の賃金を100としたときの、男女の賃金の違い」を表したグラフです。


(出所) OECD(2012)「Closing the Gender Gap ACT NOW」より作成

 OECD諸国平均を例にグラフを見ましょう。
子どもがいない男性と女性の賃金の違いは男性を100とした時に7にすぎません。つまり、女性の賃金は男性の賃金の93%です。これが子どもがいる場合はそのギャップが「22」に増えます。つまり、子どもがいる場合、男性の賃金に対して女性の賃金は78%まで下がります。アイルランドでは「子ども無し」の場合「-17」ですから、むしろ女性の賃金の方が多く、男性の117%であることがわかります。

 これに対して、日本のグラフの特徴はどのようなものでしょうか。
子どもがいなくともギャップが大きいこと、子どもがいる場合の賃金ギャプが突出していること、の2点が見受けられます。子どもがいない場合はギャップが24なので女性の賃金は男性の76%です。子どもがいる場合にはギャップが61になり、女性の賃金は同じように子どもがいる男性の39%にすぎないものになります。日本では、女性であること」に「子どもがいること」に加わると異常なまでの賃金格差が生じることがわかります。

 さて、さらにこれが母子家庭となるとどうなるでしょうか。上で見たように、子どもがいる女性の稼ぎはフルタイムですら少ないのですから、家計を一人で支える母親の負担が非常に大きなものになることは想像に難くありません。
例えば、厚生労働省の28年度全国ひとり親世帯等調査結果」によれば、母子世帯の半数以上が離婚後に「離婚した夫から養育費の受給を受けたことがない」と答えています。


(出所) 厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」より作成

 また、離別した母の学歴が大学卒、短大・専門学校卒、高卒、中卒となるにつれ、この「受給を受けたことがない」の割合が増えていきます。


(出所) 厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」より作成

 母親の学歴によっては、本人の収入が低い上に養育費をもらえないことも重なり、離婚した際の経済的負担が非常に大きなものになりえます。

 「国民生活基礎調査」によれば、実際に母子世帯の貧困率は66%、これに対し父子世帯の貧困率は19%と、
家計を支える主体が女性か男性かにより大きな差があります。(国民生活基礎調査)この日本の母子家庭の貧困率はOECD諸国では突出して高いものです。母子世帯の総数が2060で父子世帯の405世帯の約5倍ですから、ひとり親世帯の80%超が母子世帯です。ひとり親世帯の貧困率がOECD諸国最低であることを合わせれば、母子世帯の貧困率が世界的に見ていかに高いかがわかります。


(出所) OECD「Family Database」より作成(日本は2013年、日本以外は2015年の数値)

 この数字の背景には様々なものが隠れていることが、ここまでの話でおわかりいただけるのではないでしょうか。

 Leaning for Allの福祉連携拠点には多くのひとり親世帯のお子さんが通っていますが、その多くは母子世帯のお子さんです。「子どもは女性が育てるべきだ」という考えが女性の生き方を制限し、女性を経済的に 弱い立場に追いやっているのではないでしょうか。そして、それがとりわけ母子家庭の負担を大きくし、ひいては「子どもの貧困」につながっていると考えられます。「子どもの貧困」を「女性の貧困」なしに語ることができないのはこうした理由によります。

「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。」

―世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひとたちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。
あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。

 祝辞の末尾で語れられたこの言葉が、上野氏が最も伝えたかった言葉ではないかと私は考えています。

 今回は女性の問題を話題にしました。他にも、地方と都市部、家庭の年収・文化資本、言語的・民族的マイノリティなど様々な事情によって、そしてそれらの要因が複数合わさることにより「がんばろうにもがんばれないひと」「がんばる前から意欲をくじかれるひと」がいます。

 そうした「見えにくい不平等」から目をそむけ、容易に目につく「頑張ったか否か」で人の価値を決めようとする姿勢がいかに安易な態度であるかを上野氏は伝えたかったのではないでしょうか。

 

■参考文献

・2019年度 東京大学入学式祝辞
・東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センター「高校生調査」
・厚生労働省「28年度ひとり親世帯等調査結果」
・厚生労働省「国民生活基礎調査」
・内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」
・内閣府男女共同参画局「第4次男女助共同参画基本計画における成果目標の動向」
・OECD「Family Database」
・Independent ”Iceland Iceland makes it illegal to pay men more than women”
・OECD「Closing the gender Gap ACT NOW」
・小林美希『ルポ 母子家庭』ちくま新書
・小林雅之『進学格差』ちくま新書

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