HOME > トピックス > コラム > 【映画「万引き家族」から考える社会と家族のあり方】

お知らせ

TOPICS

【映画「万引き家族」から考える社会と家族のあり方】

2019.7.26

【映画「万引き家族」から考える社会と家族のあり方】


みなさん、こんにちは。Learning for All 職員の福田です。
先日の土曜プレミアムでは「万引き家族」が放送されました。

「万引き家族」は昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドール賞を受賞し、大きな話題を呼びました。日本でも観客動員数300万人にものぼる大ヒット映画となりました。

私自身も去年映画館で鑑賞し、このブログ執筆にあたりもう一度見直しました。映画に詳しいわけではありませんが、非常に素敵な作品であることは受賞と観客動員数が物語っています。

今回は、いつもとは少し趣向を変えて、この映画「万引き家族」で何が描かれているのかを考えていきたいと思います。
※多少のネタバレを含みますので、まだご覧でない方はご注意ください。

簡単なあらすじ

以下、簡単なあらすじをウィキペディア(サイトに飛びます)から引用します。(一部省略しています。)

「東京の下町に暮らす日雇い労働者の柴田治 (リリー・フランキー) とクリーニング工場で働く治の妻・信代 (安藤 サクラ) には、夫妻の息子という祥太 (
城 桧吏) 、JK見学店で働く信代の妹という亜紀 (松岡 茉優) 、そして治の母という初枝 (樹木 希林) が家族として同居していた。家族は治と信代の給料に加え、初枝の年金と、治と祥太が親子で手がける万引きで生計を立てていた。
ある冬の日、治は近所の団地の外廊下で、ひとりの幼い女の子(佐々木みゆ)が震えているのを見つけ、見かねて連れて帰る。その少女を家へ帰しに行った治と信代は、家の中から子どもをめぐる喧嘩の声を聞き、結局その少女「ゆり」は再度柴田家に戻された。体中の傷跡などから児童虐待の疑いを持った信代は彼女と同居を続けることを決め、「ゆり」は柴田家の6人目の家族となった。
連れ帰ってから2か月経っても「ゆり」に捜索願が出た形跡はなかったが、やがてテレビで失踪事件として報じられるところとなる。一家は発覚を遅らせるべく「ゆり」の髪を切って「りん」という呼び名を与え、祥太の妹ということにした。治は、祥太との万引きを「りん」に手伝わせる。
柴田家の面々は表向きは普通の家族として暮らしながら、治と祥太の万引き以外にも、亜紀を除く全員がなんらかの不正や犯罪に手を染めていた。一方、「りん」と柴田家の絆は次第に深まっていった。」

何を描いた作品か

何を描いた作品であるかの解釈は多様にありえます。非正規雇用、性産業、文化的相続、…様々な話題が描かれた作品と言えます。
とはいえ、この映画が主題とするテーマの一つが「家族」であることはおおむね誰もが認めるところでしょう。

実は、彼らは本当の家族ではありません。
「ゆり」だけでなく、男の子の「祥太」も別の家庭から連れてきた子で、「亜紀」も事情があって柴田家にいます。
そして子ども2人は一度も治と信代を「お父さん」「お母さん」とは呼びませんし、「祥太」は「ゆり」を妹と認めようとしません。

それとは裏腹に、彼らはそのことを受け入れ、時には一緒に笑い、一緒に悲しむような深い絆も同時に描かれています。
しかし、物語の終盤では、彼らが犯罪とお金で繋がった家族として振舞っていることが見えてきます。
そして、彼らを家族として認めない周囲の様子が描かれ、家族とは何かを考えさせられるものになっています。

 “invisible people(見えない人々)”を考える

是枝監督はパルムドール受賞後の会見でこのように語っています。
「柴田家をinvisible peopleとして描いた。映画の中には「見えない」、「聞こえない」のモチーフがたくさんある。花火のシーンがその中心にあった。」(要約)

作中の中盤には、花火大会の日に、花火が部屋や茂みで見えず音だけを縁側から家族全員で楽しむというシーンがあります。
確かにそのシーンは、その家族が社会から隔絶され不可視なものになっていることを示唆するシーンだと言えます。

ではこの”invisible people”とは一体誰のことでしょうか。

作品の中では、様々な側面で社会から排除された人々が描かれます。非正規労働者、貧困世帯、不登校生徒、虐待家庭、犯罪を犯した人々…などです。柴田家にはそうした属性の人々が集まっていると言えます。
そして彼らの多くは実際の社会の中でも、周縁部に追いやられていると言えます。

是枝監督も、自身のサイト(サイトに飛びます)で以下のように述べています。

この映画で描かれる家族のひとりひとりはこの3つの共同体「地域」「企業」「家族」からこぼれ落ち、もしくは排除され不可視の状態になっている人たちである。これが物語の内側。(ー中略ー)犯罪は社会の貧困が生むという建前が後退し、自己責任という本音が世界を覆う。恐らくあの「家族」はそのような言葉と視線によって断罪されるだろう

しかし、「見られない側」がいるということは「見ない側」が社会に存在しているということであり、これは二者間の問題です。
先ほど「”invisible  people”とは誰のことか」と述べましたが、「何が(誰が)彼らを”invisible”なものにしているのか」という問いの立てかたの方がものごとの本質を捉えているでしょう。

この作品の中で問い直すのであれば、何がこの「家族」を見えないものにしていたのでしょうか。
この問いに対する答えはたくさんありえますが、一つは社会が押し付ける”普通”という考え方ではないでしょうか。

“普通”を押し付ける社会

映画の中で”普通”あるいは”本当の”という言葉が発せられるシーンがいくつもあります。
例えば、女の子「ゆり」が連れられたのちにニュースになるシーンと、最後の柴田家の取り調べのシーンです。いずれも「家族」のなかの描写ではなく、「家族」と「社会」が交差する場面と言えます。

ここではいずれもニュースキャスターや警察官が「普通の親であれば、…」、「本当の家族だったら、…」といった言葉で相手を非難しています。

「本当の家族(親)」という言葉で示されているのは、「血の繋がった家族」もしくは「(血が繋がっていなくても)法的な手続きで認められた家族」程度の意味と考えて差し支えないと思われます。

それは作中でなく日常生活の中でも当てはまることです。
実際に、このブログ中にも「本当の家族」という記載をしていますが、なんの違和感もなく読み進められるはずです。

このように、私たちは「普通」や「本当の」という言葉で正統なものを決めようとする傾向があります。確かにそれは、安心を与え、社会のあり方を予測可能なものにするための便利な道具です。

しかし、何かを正統なものにすることは、同時にそこから排除されるものも作り出します。
作中の家族は「本物の」家族から排除された形の家族です。

別の家の女の子を家族にしていることがバレるのを避けるために、信代はクリーニング工場の職を追われます。また、初枝は民生委員に対して自身が独居老人であるかのように振る舞い、柴田家のことはひた隠しにしています。

このように、正統なものから一度排除された人の中には、排除されたことを自覚すると、批判を避けるためにそのことを隠し、矛盾の中で自分を納得させ、時には犯罪に走る人もいます。

さらに恐ろしいのは、本来は「見ない側」の問題でもあるはずなのに一方だけの問題になっていることです。これらの多くは本人たちによる行動であるために、その結果が簡単に自己責任だと考えられてしまいます

柴田家を追及する作中の刑事や報道の様子はそのことを如実に表しています。
「普通」や「本当の」という考えは、日本では特に家族に関するもので根強く存在しているように思えます。

「万引き家族」という映画からは、そうした示唆も得られるのではないでしょうか。

最後に

いかがでしたでしょうか。

監督自身は、受賞後の会見でこのように述べています。(いずれも要約)

“映画の制作にあたり、虐待を受けた児童を保護する施設に伺いました。そこで出会った女の子が「スイミー」の読み聞かせをしてくれ、拍手をしたらすごく嬉しそうにしていた。彼女は本当は、自分の親に聞かせたかったのではないか、と思いました。”
“「映画を作るときは、誰か一人に向かって作れ。」と教わった。今回の作品は、その少女に向けて作られたものです。”

この作品は社会で周縁化された人々を描いた映画です。そして、そこでは“家族”や”社会”の関係性も問われています。

そうした目線で、もう一度見直してみてはいかがでしょうか。

参考文献
映画「万引き家族」
KORE-EDA.com「invisible」という言葉を巡って
You Tube 「カンヌ最高賞、是枝裕和監督が会見(2018年6月6日)」
Wikipedia「万引き家族」

■社会人向け活動説明会開催中!
Learning for All では月に4回、メディアの情報だけではわからない「子どもの貧困」の実態やLFAの活動について紹介するイベントを開催してます。子どもたちの明るい未来を支えるため、私たちに「今、できること」を一緒に考えましょう。

■マンスリーサポーター募集中!
Learning for All ではサポーターを募集しております。
1,000円の寄付で子ども1人に1時間の学習支援が届けられます。
皆さまのご支援が、子どもたちの学習機会の拡大につながります。
皆さまのご寄付は、一人ひとりの子どもたちの未来を作っていきます。
ぜひ、子どもたちの未来を一緒に応援してください。

■職員募集中!
Learning for All では、一緒に働く仲間を募集しております。

■社会課題に挑む、学生ボランティア・インターン募集中!
Learning for All では学習支援居場所支援の2つのプログラムで参加学生を募集中です。プログラムへの関わり方もボランティアとインターンの2種類ご用意しています。
まずは以下の画像から、子どもの貧困やLFAの事業内容・プログラムについて説明した動画をご覧ください。

 

 

関連記事

2019.10.21

【子どもの貧困と生活習慣】〜「自己責任」で失われるもの〜

2019.10.15

【学生ボランティア インタビュー】子ども達の一番の理解者であるために

2019.10.14

【祝!設立5周年!】大感謝祭の様子