子どもたちの現状

「子どもの貧困」とは?

日本でいう「子どもの貧困」とは、
相対的貧困のことを指し、
日本では9人に1人の子どもが相対的貧困の状態にあります。
相対的貧困は、「年間の手取りの中央値の
半分以下で暮らしている状態」

定義されています。
これは例えば親子2人世帯(ひとり親世帯)
の場合、年間約127万円、
つまり1か月約10万円で暮らしている状態です。

※動画は2019年当時の情報・データをもとに作成されています。

総務省の統計によれば、母子家庭の家計における
支出平均は食費が5万円、
家賃・光熱費が4万円、交通・通信費が3万円。
相場で決まっている費用を引くと
2万円しか手元に残りません。
ここから教養娯楽費、交際費、生活用品の
出費を考えると、この生活の中で
「当たり前」に生きることの難しさ
がわかります。

子どもの貧困を放置するとどうなるの?

子どもの貧困を放置すれば、
格差の世代間連鎖を引き起こし、
わずか1学年あたりでも
経済損失は約2.9兆円、政府の財政負担は
1.1兆円増加
すると言われています。

出典:2015年12月 子どもの貧困の社会的損失推計レポート

逆に、適切な対策を講じた場合には
これらの子どもたちの生涯所得の
合計額は2.9兆円、
税・社会保障の純負担額が
1.1兆円、正規職が9千人
それぞれ増加することが明らかになり、
極めて大きなリターンを期待できることが
示唆されています。

経済的な貧困だけが、
問題なのですか?

私たちが向き合っている子どもたちの多くが、
経済的な困難を抱えていますが、
実際に子どもたちを苦しめているのは、
お金がないことだけではありません。

むしろ、経済的な基盤がないことを背景として、
本来子どもたちの健やかな育ちに必須である
「つながり」「学びの環境」「育まれる環境」を
喪失しやすい
ということが、
問題を複雑にし、
自立を阻む大きな障壁となっています。

つながりの喪失

貧困・不登校・虐待などの様々な事情から、家庭や学校の中で安心できる居場所がない。不安なことやしんどいことを相談する相手もおらず、自分を支えてくれる友人や、NPO等の支援先とのつながりもないため、孤立してしまっている。

学びの環境の喪失

学校以外に学習する環境がなく、自分に適したペースと方法で学びを進めることができない。その結果、学習におけるつまずきを重ね、大きな学習の遅れを抱えてしまっている。さらに、自信も失い、自分の可能性を信じて将来の進路や夢を描くことができない状態に置かれてしまっている。

育まれる環境の喪失

虐待を受けたり、不適切な養育環境に置かれたりしている。そのため、心地よい環境で適切なケア受ける、基本的な生活習慣を身につける、めいっぱい遊ぶといった「当たり前」の機会が得られていない。こうした状況では心身を成長させることができず、学習以前の段階で様々な課題を抱えてしまっている。

具体的には、どういう状況に
置かれているのでしょうか?

私たちが実際に出会った、
4人の子どもたちをご紹介します。

Aさん(小学3年生)の場合

小学3年生のAさんは両親と6人のきょうだいと一緒に暮らしています。両親とも病気がちで働いておらず、生活保護を受けて暮らしています。最近は特に体調が悪く、朝ごはんや晩ごはんを作ってもらえないこともあり、お腹を空かせて学校に行っています。
午前中の授業では集中して先生の話を聞くことが難しく、ぼーっとしている間に今何をしたらいいのかわからなくなってしまいます。その結果、授業を聞いていてもわからないことが増え、宿題も進まないことが増えてきました。
いつも明るく、友達も多いAさんはそれでも楽しく学校に通っています。ただ、最近は仲の良かった友達からお気に入りの服についてからかわれたり、きょうだいのことをバカにされることが増えてきました。「何で毎日同じ服なんだよ。臭いんだよ!」「うちのお母さんがお前の兄ちゃんが昔捕まったって言ってたぞ」と言われて、つい怒ってしまい、喧嘩になることも何度もありました。

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  • #生活保護
  • #両親未就労
  • #多子世帯
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Bさん(小学4年生)の場合

Bさんはベトナム出身の小学4年生。 数年前に母親が来日し、1年前に中学1年のお姉さんと共に日本に来ました。Bさんもお姉さんも、日本語も英語もまだほとんど話せず、日常生活や学校生活を送るのに必要最低限の意思疎通もおぼつきません。自分の意思が伝わらないストレスから、学校の授業中に大声を出したり、歩き回ることが多くなり、学校の先生やクラスメイトから「困った子」のレッテルを貼られてしまっています。クラスメイトからは、日本人とは違う名前であることをからかわれたり、ものを隠されるなどのいじめを受けるようになりました。母親はある程度日本語が話せるものの、日本の学校事情はよくわかりません。また、週6日夜勤をしており、Bさんはなかなか母親に自分の状況を話すことができていません。
Bさんもお姉さんも、 地域のボランティアの日本語教室に先生の紹介で通っていました。しかし、週1〜2回の授業で、毎回先生が変わることへのストレスや、教室の数が少なく、遠距離なこともあり、現在は足が遠のいてしまっています。Bさんが深夜に家の外を歩き回っている姿を、地域の人は何度か見かけています。子どもが出歩かない遅い時間に出歩くBさんのことを気にはかけており、地域の主任児童委員の耳には、相談が入ることもありましたが、なかなか本人と直接話すことはできていませんでした。

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Cさん(中学3年生)の場合

中学3年生のCさんは、母親と2人の弟と4人で暮らしています。母親は精神的に不安定で体調を崩すことが多く、月に何度か通院もしており、働くことが難しく、生活保護を受給しています。Cさんは勉強が得意ではなく、発達障害の疑いもあります。学校の勉強には少しずつついていけなくなっていました。小学生の間は兄弟と一緒に「学童」や「放課後子ども教室」に通い、そこで宿題や学校の勉強の復習ができていましたが、中学校に入ってからは学校の勉強や宿題を教えてくれる人はいなくなってしまいました。Cさんは、勉強ができないことで自信を失っており、「どうせ俺はバカだから」「なにやってもできない」と度々口にすることがあります。勉強ができるようになりたい気持ちはあるものの、塾に通う経済的な余裕もなく、相変わらず学校の授業にはついていくことができていません。
中学3年生になり、高校進学を考える時期に差し掛かりました。Cさんは公立高校の普通科に進学希望ですが、学校の面談で「今の学力だと定時制高校への進学が現実的だ」と言われてしまいました。勉強して志望校に進学したい気持ちはあるものの、最近母親の体調も悪く、弟たちの世話や家事を手伝うことが増え、勉強する時間があまりありません。進路について不安なこともありますが、母親の体調を考えると、なかなか相談することもできない状況が続いていました。

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Dさん(16歳)の場合

Dさんは16歳で、母親と中学1年生と小学3年生の弟の4人で暮らしています。母親は3人の子どもを養うために朝早くから夜遅くまで働いており、加えて、就学援助を受給しています。Dさんは、定時制高校に進学したもののバイトと学校の両立が難しくなり、 高校1年生の夏に中退し、今は学校に通っていません。弟は2人とも不登校になっており、 現在Dさんが家事をしながら2人の面倒を見ています。高校に通わないと将来大変なことになるのではないかという漠然とした不安があり、高校に通いたい気持ちもありますが、中学生の時にいじめに遭った経験から、学校に通うこと自体への不安も同時にあります 。また、自分の気持ちを理解してくれたり、進学準備のために何から始めたらいいのか相談に乗ってくれる人がいません。
Dさんにとっての転機は中学生の頃でした。母親の就労条件が悪くなり、長時間労働を余儀なくされたことで、Dさんが下の弟たちの世話を担うようになっていきました。家事に時間を取られることで部活を続けられなくなり、クラスで孤立することが増えた Dさんは2年生の頃からいじめのターゲットになってしまい、その半年後には学校に行かなくなりました。当時、中学2年生の後半から、Dさんの家をスクールソーシャルワーカー(SSW)が訪ねるようになり、Dさんの相談に親身になって乗ってくれていました。SSWからかけられる温かな言葉はDさんにとって救いになっていましたが、中学を卒業するとSSWの訪問もなくなり、 誰にも自分の悩みについて相談できない状態になってしまっていました。

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国や自治体・教育機関は、
十分な支援を提供していないのですか?

 困難を抱える子どもたちに対しては、
「学校」「地域」「家庭」の様々な場面で、
多様な主体がサポートを行っています。
しかし、支える大人側にも、
直面している課題・困難があり、
それゆえに、サポートの網目からこぼれ落ちてしまう子どもたちがいるというのが現状です。
 例えば、就学援助対象の⼦ども数が
約122万人(令和5年度)であるのに対して、
実際に支援を受けている子どもたちは、
年4.8万人程度
にとどまります。(※)

また、特にリスクの高い“レッドゾーン”の
子どもたちと、問題のない子の間に位置する
“イエローゾーン”に多くの子どもたちが存在
し、
そのボリュームゾーンへの支援が
特に足りていません。

※⽣活困窮者⾃⽴⽀援制度の「学習・⽣活⽀援事業」の受益者数(令和元年度)
※令和7年1月15日 文部科学省 初等中等教育就学支援プロジェクトチーム 就学援助実施状況等調査結果
厚生労働省社会・援護局 地域福祉課生活困窮者自立支援室 生活困窮者自立支援法等に基づく各事業の令和5年度事業実績調査 集計結果

子どもの困難度と支援

※大阪府立大学 山野則子教授「学校・家庭・地域の教育力を機能させる仕組み作り
〜学校プラットフォームの実現に向けて〜」を元に改変

実際に子どもたちを支援している大人たちにも、
それぞれの立場で様々な制約があり、
十分な支援の提供が難しい
実態があります。

家庭(行政による支援)

  • 人手が足りない。
  • 学校やSSWとも情報交換できればと思うが、最近は個人情報の関係で連携が一層難しくなったように思う。
  • 保護者支援が主なため、子どもの様子は情報が入らないことも…。
  • 子どもの支援現場がどこにあるか、どう繋いでいいかわからない…。

学校

  • 時間が足りない、人手が足りない。
  • 相談するにも個人情報をどこまで伝えていいのか…。
  • ケースごとに相談先も違うし、どこに相談したらよいのか…。
  • 他機関との連携も大事。連携先の情報がもっと欲しい。
  • 学校からの申請がないと動けない…。
  • 繋げたくても適切な社会資源がないことが多い…もどかしい。

地域(学校外の支援)

  • 他の関連機関ともっと子どもの様子を共有できれば、より良いサポートができるのに…。
  • 気になる子がいても、どこに相談したら良いのか…。

こうした状況に対して、根底には、
支援する人材の不足や
支援に必要な財源不足を
解消することが重要であるのは
言うまでもありません。

しかし、支援量の充実を待つ以外にも、
何か打つ手はないのでしょうか。

私たちLearning for Allは、
既存の地域資源(支援の主体)が、
それぞれの強みを生かしつつ、
相互の連携を密にすることによって、
地域における子どものサポートの網の目を
より細やかにしていくこと
が、
その答えだと考えています。

つまり、連携によって「包括的」な支援体制を
作り上げていくことで、
こうした課題に
アプローチすることが可能と考えています。
私たちはこの仕組みを
『地域協働型こども包括支援』と名付け、
全国に広げることを目指しています。