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児童虐待で亡くなる子どもをなくすために我々にできること(1) – 親叩き・児相叩きを超えて-

2018.6.25

皆さん、こんにちは。Learning for Allの入澤です。

目黒での
児童虐待事件とその後の世の中の反応を受け、今日は児童虐待について考えてみたいと思います。特に、どのようにしたら児童虐待で亡くなる子どもをなくすことができるのか、「今からできること」に繋げられるように考えてみます。国や市町村や児童相談所の話もしますが、私にできることであり、この記事を読んでいる皆さんにできることについてです。

どのように事件は伝えられ、語られたのか?

まず最初に、事件の報道と事件への世の中の反応を見て私が考えたことを2つ書きます。

1つ目です。事件の報道後、過去の虐待事件の報道と同様に、幼い5歳の子どもの命を奪った親への批難が集中しました。テレビのニュースや新聞・ネットの記事で事件の詳細、特に亡くなった子どもが受けた惨たらしい虐待の実態を知るにつけ、その虐待を実行した親への怒りが湧くのは仕方ないことにも思えます(私も怒りで足が震えるのを感じました)。ただ、「病的な異常な親」の像を作り上げることは、親を虐待に向かわせたその背景への想像力、ひいては「虐待」という現象そのものへの想像力を奪います。これは中身のある虐待対策を考える上で致命的です。

2つ目。ニュースやそれを受けた世の中の反応では、警察に情報共有をし立ち入り調査を依頼することを怠ったことが児童の死亡という最悪の結果を招いたとして、児童相談所の閉鎖的・縦割り主義な体質が問われています。そこでは、「児童相談所のあり方を変えなければ、同じ事件は繰り返される」というのが基本の論調でした。ただ、この主張の前提は「児童相談所が虐待対応をする」、ですね。しかし、虐待から児童を救うためには、「児童相談所への虐待対応の一極集中」という現状自体を変えなければならないのではないでしょうか?児童相談所は、市町村支援機能・相談機能・一時保護機能・措置機能の4つの機能を持ちますが、困難を抱える世帯からすれば、子どもを自分たちから引き剝がしうる(一時保護機能・措置機能)施設に対して頼ること(相談機能)は難しく、そこに必然的に機能不全が発生する余地があります。なので、児童相談所だけでなく、その機能を分散させることを視野に入れながら、虐待対策のシステムのあり方全体を変えていくことが必要だと思われます。

まずは、上の2点のうちの1点目について考えていきましょう。

なぜ虐待が発生するのか?

児童虐待は子どもから日々の安心を奪い、心身の発達や人格の形成に大きな悪影響を与えます。そして、最悪の事態では、今回の事件のように命が失われることにもなります。ですが、そもそもなぜ虐待は発生してしまうのでしょうか?

例えば、今回のような事件への批判でよくあるように、親の性質の問題は実際にありえます。親がなんらかの依存症である、知的・発達障害がある、精神疾患である、自分自身の養育環境から愛着不全であったり、不適切な養育方法を獲得しているなど・・・様々な原因が考えられます。また、子どもの性質から虐待につながることもあります。例えば、子どもの発達の偏りが激しかったり、なんらかの障がいを持っているなどが原因で、親の養育力の限界を超え、親に過度なストレスが加わり、虐待につながってしまうことがありえます。

ただ、そのような場合でも両親やその他の家族が効果的に支え合うことができたり、専門機関や信頼できる親類・友人などに頼ることができれば虐待に陥らずに済みますよね。つまり、虐待の問題を考える時には「親」や「子ども」に原因を探ることだけに固執せず、外部に開くこともできれば、内に閉じてしまうこともある家族の「関係性」に視点を合わせるべきです。家族内での関係性がどのようになっているのか、家族のメンバーは社会の他のどんな場所につながっているのかを考えないといけません。家族のメンバーが職場や学校、地域、友人や親族の中にも所属して支えられており、家族内の関係性が健全に保たれていると、家族は様々なストレスや危機に柔軟に対応できます。ただ、そうでないと、えてして家族は家族に加わるストレスを特定の決まった、時に病理的なパターンで処理し始めます。それは例えば、夫から妻への暴力であったり、子どもへの虐待であったりします。

先日の事件で亡くなったゆあちゃんは母側の連れ子だったようです。母と継父の間にはその二人の間に生まれた子どもがおり、ゆあちゃんはその子とは違う差別的な待遇を受けていたようです。このような待遇の違いを出すことが、おそらくこの家族にとってストレスに対処するパターンだったのでしょう(強調しておきますが、ここで言うストレスとは気分をよくするためのストレス解消の「ストレス」とは違う意味です。生活上避けがたい深い負荷と言うような意味です)。また、ゆあちゃん一家は1月に香川県から東京に引っ越してきたところだったようです。家族は社会的にも香川にいた時よりも孤立していた可能性があります。特に、ゆあちゃんは家族の中でも外でも二重に孤立を深めたことでしょう。

報道では、児童相談所の情報共有の杜撰さから警察の立ち入りができなかったことが強調されています。病的な親から子どもを救えたはずだというのが主な主張になっていますが、本来は、「虐待という病的なストレス対処のパターンに陥ってしまった家族に対して、より早く介入して、虐待をなくせたはずだ」という主張がもっと聞こえてもいいように思えます。

世帯の抱える困難を知り、より早期に虐待に対処する、もしくは予防するような体制構築が必要です。さて、回り道をしましたが、これが最初に指摘した2点のうちの2点目に重なります。「児童相談所への虐待対応の一極集中」という現状をどう変えるかについてです。まず、そもそも、日本の児童虐待対策は2000年代初頭からこのような発想で進んできています。

児童虐待の対策はどのようになっているのか?

児童虐待については、何も対策がなされてこなかったわけではありません。2000年に「児童虐待の防止に関する法律(以下、児童虐待防止法)」が施行されて以降、様々な施策が講じられています(注1)。特に、2007年には要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)の設置が努力義務化されたことは特筆すべきでしょう。「関係機関が連携して児童虐待の早期発見に努め、虐待児の世帯を支援する」という方針が明確になりました(注2)。

(大田区 児童虐待対応マニュアル(機関向け)より)

 

要対協は困難度・緊急度の高い児童(要保護児童)に関する情報交換や支援内容の協議を行う協議会であり、虐待児の早期の発見、迅速な支援の開始、構成機関での円滑な情報共有、そして世帯と子どもへの支援の関係機関での役割分担の明確化を可能にします。要対協の構成員は、市町村の児童福祉などの担当部局、福祉事務所、児童相談所など児童福祉関係の機関、教育委員会や小中学校など教育関係の機関、警察署や弁護士など警察・司法の関係機関、また医療機関など多岐にわたります。虐待家庭では、親の経済的困窮、就労問題、疾病や介護など様々な課題が複雑に絡み合っているケースが多く、多くの機関が話し合いながら支援策を考え、進めていく必要があります。虐待児の世帯を支援するためにも要対協は必要な枠組みです。実際、自治体での現在の設置率は99.5%に上っています。

さて、翻って今回の事件についてもう一度考えてみましょう。今回の事件の報道への反応として、警察と児童相談所の連携を強化するべきだという声がたくさんあがっていました。ただ、私にはどうしてもそれで今回のような事件を防げると思えません。今回の事件のように、過去の記録から虐待が疑われる家庭があり、子どもへの接触を拒んでいたとして、即座に虐待をしていると判断できるわけではありませんし、仮に警察が家の中に立ち入っても虐待の証拠を得ることができなければ子どもを家庭から離すことは容易ではありません。むしろ、ドアをより一層閉ざし、世帯の状況が暗闇に潜ってしまうリスクが跳ね上がってしまいます。安易な対応はより一層の最悪の事態を招きうるのです。

むしろ、虐待の疑いのある世帯と児童相談所・警察だけが向き合う状態にせず、多様な機関や人が世帯と柔軟に長期的に関わっていくべきではないでしょうか?世帯との接点を増やし、相談できる人・信頼できる人を増やしていくことでしか、家庭の中の様子はわかりえませんし、適切な支援・介入についても判断できません。「今ここの命が危ういのにそんな長期戦などありえない」と思われる方もいるかもしれませんが、虐待への対応は常に長期戦です。たとえ、子どもと家庭を離したとしても、将来子どもは家庭に戻ることになるかもしれないわけで、家庭と子どもへの支援は本来長期的に続けなければなりません。

私は、関連機関が情報共有・役割分担をしながら支援を進めるという今までの虐待対策のあり方・歩みが、事件後の世の中の反応の中で霞んでいるように思えてなりません。虐待対策・支援現場では「三歩進んで二歩下がる」ことを繰り返しながら粘り強く世帯に関わることが求められます。とにかく警察に家の中に踏み込ませろというのは実態とも理想とも離れてしまっています。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次の記事で、Learning for Allの現場から見えてきたものと我々に何ができるかをお話ししたいと思います。

—————————————————

注1)例えば、児童相談の第一次的相談窓口に市町村が位置付けられ、、要保護児童対策地域協議会の設置が努力義務化されています。また、子どもによる配偶者暴力の目撃が心理的虐待の定義に追加され、正当な理由なく立ち入り調査を拒否した場合の罰則の強化や出頭要求や家庭内臨検・子どもの捜索の制度化などが行われました。加えて、親権の一時停止制度の創設や未成年後見制度の改正、子どもの最善の利益を確保するための児童福祉施設長の権限強化等の措置などの施策が整えられています(柏女 2013)。
注2)その後の流れとして、例えば、2008年の改正児童福祉法では、重要事家庭全戸訪問事業、教育支援訪問事業、地域子育て支援拠点事業等の子育て支援サービスが法定化されており、要対協の機能強化も謳われています。


参考文献
大久保真紀(2018)ルポ 児童相談所
才村純(2017)要保護児童対策地域協議会とは ─制度化の背景と機能,課題─ 児童青年精神医学とその近接領域 58, 163-165
玉井邦夫(2001)<子どもの虐待>を考える
千葉県(2014)子ども虐待対応マニュアル
馬場文(2016)市町村における児童虐待対応の課題 一要保護児童対策地域協議会に関する先行研究レビューよりー  龍谷大学大学院研究紀要 社会学・社会福祉学 23, 49-67


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