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児童虐待で亡くなる子どもをなくすために我々にできること(2) – 親叩き・児相叩きを超えて-

2018.6.25

皆さん、こんにちは。Learning for Allの入澤です。

前回から引き続き、目黒での
児童虐待とその後の世の中の反応を受け、児童虐待について考えてみたいと思います。今回は前回の記事の後半戦です。Learning for Allの現場から見えたものをお伝えし、我々に何ができるのかを考えたいと思います。

Learning for Allの現場から見えたもの

Learning for Allは2016年11月から子どもの家事業をスタートさせました。子どもの家事業では、アウトリーチを行って貧困世帯の子ども達を集め、そのような世帯の子ども達を対象とした学童施設を運営しています。施設に通う子どもの中には、要対協の枠組みでケースカンファレンス(関係機関が集まって行う会議)を行い、支援方針を決めて支援を行っている子どももいます。また、今は大丈夫ですが、過去に児童相談所など行政の介入があった家庭の子どももいます。そういった子ども・世帯と関わることで学んだことがあります。

まず、第一に、そういった世帯の保護者の多くが行政に強い不信感を持っており、孤立しています。過去に行政から強制的な介入を受けた世帯の保護者は、強い屈辱感や劣等感を感じて自尊心を傷つけられています。多くの人が何も好きで虐待をしてしまう状況に陥っていたのではありませんし、そのように感じるのは当然のように思えます。そして、生活に困り感を抱えていても誰にも言えずにいることが多く、本当に支援が必要な家庭こそが行政の窓口から遠い存在になってしまいっています。

ですが、第二に、「聞き手」や「伴走者」の役割を担う人がいることで、そのような世帯も支援につなげることができると学びました。支援しようとしている人の気持ちや意図とは裏腹に、支援しようとしている人から出る「臭い」は敏感に嗅ぎとられ、避けられてしまいます。そこで、子どもの家の現場では、スタッフが保護者の声を聞き、受け止めることをまずは丁寧にしています。日々の子どものお迎えの時などを通じて、風通しの良いコミュニケーションを心がけ、そして、支援のニーズが高まった時に踏み出す一歩に寄り添うことことを徹底しています。必要なのは世帯から遠い「窓口」ではなく、表情や態度から困り感を読み取り寄り添ってくれる暖かい「人」でした。

第三に、二つ目と関連しますが、要対協(要保護児童対策地域協議会)のような枠組みもそれだけでは完璧ではなく、「聞き手」や「伴走者」の役割を担える情熱ある人がいることではじめて内実を持つということです。実際、要対協は設置はされていても、うまく機能していないこともあり、要対協の観察下に置かれていても児童の死亡事例は起こっていますし、支援の枠組みから漏れてしまっている子もいます(才村 2017)。また、どういった児童を要保護児童(特に緊急で支援が必要な児童)とするかなどの基準が曖昧であったりするために、支援が事実上ストップする「塩漬け」状態の児童が発生したりもします。市町村の児童虐待対応の現場では、要対協の場を活用しつつさまざまな試行錯誤 がされていますが、未だ有効な支援技術などは確立しておらず、多くの課題を抱えながら模索中というのが現状のようです(馬場 2016)。そのような状況に対して、大切なのは情熱と専門性でした。常に児童の最善の利益を追う情熱が、要対協の構成員を動かし、「塩漬け」になったケースも前に進めることを実感しました。そして、実際の支援策を考える上ではそれぞれの専門性が鍵になります。子どもの家の現場では経験豊かなソーシャルワーカーと契約しており、アドバイスをもらいながら専門性を担保しています。
子供たちを見守る保育士のイラスト

最後に、支援者に対してもエンパワメントが欠かせないと学びました。「三歩進んで二歩下がる」を繰り返すような支援をしていると支援者も自然と消耗します。加えて、うまく支援が進んでいたはずなのに突然四歩も五歩も下がってしまうことだってありえます。そのような状況では、情熱ある支援者こそが責任感・徒労感に押しつぶされることもしばしばです。それを防ぐためにも、支援者の強みを称賛し、その力が生きる環境を整え、支援の進歩を確認してともに喜ぶことが重要です。

我々にできること

さて、最後に我々に何ができるのかを考えましょう。

今回の事件とその世間での反応から、児童相談所の機能強化と警察との連携ばかりが叫ばれていますが、要対協の設置から(そしてそれ以前から)進んできた関連機関が連携した虐待の早期発見・予防〜継続した支援の体制づくりの方向性を見失わないようにするのが大事に思えます。一つの痛ましい事件への感情的な反応から表層的な対策に飛びつくのではなく、「児童虐待」という現象を深く理解し、その対策に伴う難しさを考え、そしてこれまでの虐待対策の歩みを踏まえて、有効な対策を検討するべきです。そもそも児童福祉分野への予算配分が他の先進国に比べて圧倒的に少ない現状を考えると、声を大にして叫ぶことはとても大切です。ですが、そんな時でも冷静さを保つことが「児童の最善の利益」のために求められます。

また、児童虐待に関わる人たちへのエンパワメントの姿勢を社会全体で作っていくことが必要だと思います。児童相談所のあり方への批判が集中しましたが、人員も少ない中で数多くの虐待のケースに対応しているため、現場は常に多忙感を極めています。そうでなくても、虐待対応の現場では、どれだけ努力してもやりきれなさを感じてしまうことも多いはずです。そんな中で批判ばかりに晒されては、さすがに心ある現場の職員も世間に心を閉ざしてしまいます。より良い改善策を探る上でも、「対話」の回路を閉じてしまうのはよくありません。現場で子どもと世帯に向き合う人の背景と心理を想像し、エンパワメントの姿勢を持ちたいものです。

さらに、児童虐待が児童相談所や警察のみが扱う問題ではないと認識することも非常に重要です。要対協の構成員の多様さ・多さを考えると児童虐待対策の裾野の広さがわかるはずです。児童虐待はどんな家庭でも起こり得ることを考えると、その裾野の広さが大切になります。子どもに関わるあらゆる組織・機関が虐待対策の当事者であるという認識を改めて持つ必要があると言えるでしょう。今回のような痛ましい事件が起きてからではなく、常に定期的に虐待発見のチェックリストを見直すなど現場での体制整備を子どもに関わる専門職全員が進めることが求められます。そして、支援が必要な世帯や子どもがいれば、継続的な支援のためにどんな役割を担うべきか考え、積極的に他の機関にも働きかけるべきです。

最後に、子どもにとってのセーフティネットの網の目をより細かく丈夫にするためにも、一人一人の地域の大人の働きが重要になります。児童虐待は教育・児童福祉機関だけで見つけられる問題ではありません。家のすぐ近くに、虐待を受けている子供はいるかもしれません。そのような子どもの存在はえてして注意していれば見えますが、そうでないと気がつけないものです。子どもの家の現場につながった子どもの中には地域の町会の大人達から目をかけてもらっている子もいました。「地域で子どもを育てる」意識を持ち、勇気ある「おせっかい」を実践することが、子どもを救うことにつながるはずです。
緑のおばさんのイラスト(私服)

児童虐待はこの社会に生きる我々全員が向き合うべき問題です。法律・施策が定められれば万事解決とはなりませんし、虐待をする親や児童相談所を批判しているだけでも当然何も変わりません。子どもを社会の中の「誰か」に押し付けるのではなく、社会全体で子どもを育てるという意識を育むことが重要ですね。


参考文献
大久保真紀(2018)ルポ 児童相談所
才村純(2017)要保護児童対策地域協議会とは ─制度化の背景と機能,課題─ 児童青年精神医学とその近接領域 58, 163-165
玉井邦夫(2001)<子どもの虐待>を考える
千葉県(2014)子ども虐待対応マニュアル 
馬場文(2016)市町村における児童虐待対応の課題 一要保護児童対策地域協議会に関する先行研究レビューよりー  龍谷大学大学院研究紀要 社会学・社会福祉学 23, 49-67


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