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【大学入試改革と貧困家庭が抱えるハードル】

2019.7.22

【大学入試改革と貧困家庭が抱えるハードル】

みなさん、こんにちは。Learning for All 職員の福田です。

昨今、2020年度からの大学入試改革が注目を浴びています。今回の改革に対しては、賛否両論様々な意見が出ていますが、皆さんはどのように考えますか。

今回は大学入試改革と貧困やその他の問題について考えていきます。

 大学入試改革とは?


大学入試改革とは、文部科学省が進める「高大接続改革」の3本柱のうちの一つです。

(出所) 文部科学省HP「高大接続改革」から引用

従来の暗記重視、選択型の試験に対し、学力の3要素たる「① 知識・技能 ② 思考力・判断力・表現力 ③ 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価するための試験に大学入試試験を転換するというものです。

(出所) Z会「新大学入試の基盤となる『高大接続改革』とは」より引用

例えば、大学入試において多くの人が受けるセンター試験は大きな変更を迎えます。
まず「センター試験」という名称のテストがなくなり、「大学入試共通テスト」と呼ばれるテストになります。
従来は全教科マーク式だったものが、国語と数学に一部記述式回答が導入されます。他の教科(理科や社会)でもより複雑な問題が採用されます。

その中でも最も大きな変更にさらされるのが英語です。
変更の目的として4技能試験(リーディング、リスニング、ライティング、スピーキング)への対応が唱えられており、センター試験での配点がリーディング:リスニング=4:1だったものが、大学入試共通テストでは1:1へ変更されます。
さらに、ライティングへとスピーキングへの対応のために、外部民間試験の導入が検討されています。
この民間試験にあたるのは、英検、TOEFL、Benesseが行うGTECなど計7種(他にIELTS、TEAP、TEAP CBT、ケンブリッジ英語検定)です。
(当初はTOEICも民間試験の一つとして予定されていましたが、TOEICは7月2日に「責任を持って対応を進めることが困難」として参加取りやめを表明しました。)

民間試験は大学入試共通テストに加えて受験するものであり、受験生は高校3年生の4月から12月の間に受けた試験2回までの結果を利用可能です。その利用方法は大学によって異なります。

例えば、「英検2級以上の所有者のみ2次試験の受験資格を与える」、「スコアに応じて大学入試共通テストの英語の点数に加算する」といった対応が各大学でなされます。

(出所) 文部科学省「高大接続改革の進捗状況について」より引用

そして、最も多くの論争の的になっているのがこの「英語の民間試験導入」です。
これについては、多くの問題点が指摘されており、先月6月18日には英語民間試験の中止を求める請願書が国会に提出されました。指摘されている問題点には、4技能試験や民間試験導入の効果が不明瞭であること、行政上の負担などがあります。

以下の部分では、この「英語民間試験導入」に関する問題のうち、受験生間での公平性に関する部分、特にそれが貧困世帯や特別な障害を抱えた子どもたちにどんなハードルになるのかに話をしぼってお伝えしていきます。

受験の機会格差

まず想像がつくのがこの民間試験の費用です。
例えばTOEFLであれば、一度の受験で235ドル(約25,000円)の費用がかかります。
英語検定試験であれば、大学受験で使用が想定される最も低い級である3級は受験料が3800円です。

級が上がるにつれ金額は増し、センター試験と同程度のレベルである2級であれば5800円、高校生で英語が得意な子が受けるであろう準1級であれば6900円の費用がかかります。
英検はあまり負担なく受けられるように感じますが、これを2度受けたり、もしくは別の試験を受けたりする必要性も生じてくるわけです。(もちろん1回の試験で望ましい結果が出るとは限りません。)
そうなると、ただでさえ大学入試共通テストの受験料や個別の大学受験料、さらには入学金(奨学金振込の前に用意が必要)の準備におわれ経済的な負担が大きい中で、追加の負担になることが想定されます。
問題は公的な試験であるにも関わらず、大学入試共通テストとは別にこうした民間試験をうけなければならないこと、そしてその受験に追加で数万円単位の費用がかかることではないでしょうか。

では例えば、受験料の減額・免除措置などが実施されればそれで済むのでしょうか。

残念ながら、それでも機会の問題は解決しないことが想像されます。
例えば、受験会場の問題が残ります。
例えばIELTSは全国16都市でしか実施されていません。都市部以外に住む生徒にとって受験はほぼ不可能です。
また、TEAPやGTECの受験会場は「47都道府県」とされていますが、それでも各都道府県の中心部に住んでいない生徒は心もとないでしょう。
電車やバスを乗り継いで片道何時間もかかるような場所に何度も行くのは相当な負担になります。

センター試験だけならまだしも、それを「人生の大事な試験なのだから我慢するべきだ」と何度も足を運ばせるのは、受けさせる側の論理にすぎません。

(出所) 英語4技能試験情報サイト「2020年度より導入される「大学入試英語成績提供システム」に参加予定の資格・検定試験概要」(一部)

対策の格差、情報格差

また、受験機会以外にも問題はあります。
英語を勉強されたことがある方ならわかると思いますが、一般的にスピーキングやライティングほど独学が難しく、リーディングやリスニングは比較的独学が容易です。
4技能で新たに注力されるのはまさしく独学の難しいスピーキングとライティングであり、個別指導塾などに通える経済的余裕のある生徒の方が従来にもまして有利になることがわかります。
また、受験の情報を得やすい大手の塾に通う生徒にも有利でしょう。
そして、そうした塾でも、従来の英語の授業に追加する形でスピーキング対策の講座などが用意されるところが多いでしょうから、経済的な負担は積み重なっていきます。

大手予備校の夏期講習の費用

 

内容

費用

A社

英語共通テスト対策、TEAP対策、スピーキング対策講座(5日間)

17300

B社

TEAP対策、GTEC対策(2日間)

12600

C社

4技能対策講座(5日間)

21000

(出所) 大手予備校HPより作成

こうした様々な要因から、経済的に困窮する家庭が十分な情報を得て十分な対策をするのは難しいと考えられます。

特別な配慮

これまで見てきた様々な格差のほかにも、子どもたちの特性による格差も懸念されます。スピーキングが試験に導入されることにより、民間試験の実施団体には吃音や聴覚障害、場面緘黙(かんもく)を抱える子どもへの合理的配慮が必要になります。
こうした配慮が十分でないことも問題視されています。実際に、Benesseが行うGTECで吃音症の子に対する配慮がなされていなかったことがわかり、対応が要請されています。
こうした障害や特性を理由に不利に扱われるべきではないはずですし、それは民間が実施する試験になったからといって「仕方ない」で済ませて良いものではありません。
英語4技能の入試への導入は、(仮に効果があることを前提にしたとしても)諸々の不平等を助長してまで達成すべきものであるか、疑問が残ります。

最後に

ここまで2020年度に控える大学入試改革について、その改革が貧困家庭や特別な配慮を要する生徒たちにとってハードルになりうることを説明してきました。冒頭でふれたように、それ以外にも問題は山積しています。

全ての生徒に平等な制度となるように、結論ありきの議論ではなく本質的な議論のもときちんと解決の方針がたった上で改革が行われることを願います。

参考文献
Z会「新大学入試の基盤となる『高大接続改革』とは」
文部科学省「大学入学者選抜の動向」
文部科学省「高大接続改革の進捗状況について」
英語4技能試験情報サイト「2020年度より導入される「大学入試英語成績提供システム」に参加予定の資格・検定試験概要」
毎日新聞「大学共通テストの英語試験、吃音受験生に『配慮を』自助グループ要望」
朝日新聞「英語民間試験導入、中止に八千筆、大学教授ら野党に請願」
時事ドットコムニュースーTOEICが参加取り下げ=共通テストの英語民間試験ー
NHKハートネット「話したいのに、話せない…。”場面緘黙を知っていますか?”」
各予備校HP

 

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