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【虐待を考えるvol.2】〜虐待をなくすためにできること〜

2019.11.13


みなさん、こんにちは。Learning for All 職員の福田です。
今回は先週の記事に引き続き、虐待を防ぐためにできることについて考えていきいます。

私たちは虐待をなくすためにどうすればいいのでしょうか。まずは既存の虐待対応の仕組みについて考えましょう。

虐待対応の仕組み

先週の記事では、虐待が生じるメカニズムについてごく簡単な図式を提示しましたが、虐待の対応はそれほど簡単なものではありません。
まず児童虐待に対応する中心機関は児童相談所です。児童相談所には、児童福祉司、相談員、精神科医、児童心理司などに加え、場所によっては小児科医や保健師が配置されます。

2004年には児童福祉法改正によって、保健、医療、福祉、教育、司法、警察などの関係機関が一堂に会して情報交換や援助検討を行うネットワークが要保護児童対策地域協議会が法定化されました。

関係機関が虐待の早期発見、援助、保護のための連携が図られていますし、この協議会の設置率はほぼ100%に達しています。

(出所) 大田区「児童虐待対応マニュアル」より引用

また、「関係機関」を広くみなせば、児童虐待防止法で子ども虐待の早期発見を期待されている児童福祉施設職員、学校教員、医師、保健師も児童虐待の防止に責任を負っていると考えられます。
こうした諸機関が児童相談所を中心に連携しつつ、児童虐待の防止、発見、保護、指導にあたっているのが児童虐待への対応のあり方です。そして、その対応のための法令も課題に合わせて施工・改正されています。

例えば、保健センターは1歳6ヶ月児検診、3歳児検診を行なっていますが、2009年からは生後4ヶ月の乳児のいる家庭を全戸訪問する「乳児家庭全戸訪問事業」が市町村の努力義務となっています。

(出所) 東京都福祉保健局少子社会対策部子ども医療課「新生児訪問とこんにちは赤ちゃんの協働に向けて」より引用

また、児童虐待防止法の通告義務の規定では、「児童虐待を受けた児童を〜」という文言が、2004年に「児童虐待を受けたと思われる児童を〜」と変更されました。虐待が密室で行われており、断定が難しいことを踏まえての変更です。

虐待対応の課題(1) 児童相談所の多忙

ここまで見れば児童虐待に対応するための法的整備は進歩してきていると言えます。
しかし、その中核を担う児童相談所の様子を丁寧に見れば、必ずしもそうではないかもしれません。

例えば、職員の数の問題です。下のグラフからわかるように、児童虐待の増加に対してそれに対応する児童福祉司の数は追いついていません。児童虐待防止法が制定された2000年でさえ、児童福祉司の数が足りないことが問題視されていたにも関わらず、そこから20年近く経てもなおその課題は解決せず、当時と比べて3倍の以上の案件に対応する必要に迫られています。

(出所) 厚生労働省「児童相談所での児童虐待相談対応件数」「児童福祉司の概要」より作成

どう考えても、児童相談所の職員の数が足らないことは明白です。
児童の命に関わる仕事を一人何十件もこなさせてしまっている状態が異常と言わざるを得ません。

虐待対応の課題(2) 児童相談所の機能集中

また、単に人手不足というだけでなく、機能の集中も問題です。
特に、保護者からの相談を受ける機能と、実際に虐待が疑われる家庭への介入の機能を同一機関が有していることは双方に不利益を生みます。

保護者側からしてみれば「子どもの保護(隔離)」と「保護者の指導」をする人たちが同じなわけです。
誤解を恐れずに言えば、「自分たちが相談をできる人」と「(自分の家庭に介入するという点で)対立する人」が同じなわけです。
保護者としても介入を避けたいと考えるでしょうし、児童相談所側もやりづらさを感じるはずです。

児童相談所が持つ2つの役割は今年6月の法改正で分離されることになりました。児童保護など「介入」をする職員と、保護者の指導に当たる職員が分かれます。これがどこまで功を奏するのか、実際の効果を検証しつつ丁寧に検討しなければなりません。

虐待対応の課題(3) 通告制度の機能不全

児童虐待の早期発見には予兆を発見することが大事ですが、近隣や専門機関からの通告の制度はどれだけ機能するのでしょうか。
近隣で異変を感じる場面があれば、それを察知した人には通告することが求められます。
(法律上は、児童虐待が疑われた際の通告は「義務」です。また、秘密漏示や守秘義務違反の規定が通告の妨げになることはありません。)

(出所) 文部科学省「児童虐待への対応のポイント」より引用

ちなみにこの「189通報」は110や119同様に365日、24時間利用可能で、最寄りの児童相談所につながることになっています。(110での通報も必要に応じて警察が児童相談所につなぐことになっています。「少年警察活動規則」38条)

もちろん、こうしたサービスの周知と理解の促進は重要ですし、私たち自身がこの通告制度を利用する心づもりをしておくことは重要です。

しかし、こうした通告はどうしてもためらわれます。

実際に埼玉県が医師会に対して行なった調査では、「虐待または不適切な養育」を発見した後に関係機関に通告を行なった医師は半数以下にとどまります。その理由は、「判断に自信が持てない」「保護者に訴えられないか心配」「守秘義務への抵触が心配」というものでした。守秘義務違反にならないことや通告者の情報が開示されないことがあまり広く知られていないことが伺えます。
医師でさえためらいを感じるのだから、一般の住民、それも特に関わりがあるわけでもない住民が通告するにはあまりにハードルを感じるはずです。

やはり通告に頼る仕組みに多くを期待しすぎるのは難しいように思われます。
(「通告」の時点で保護者にスティグマが生じることを考えても、通告のハードルを下げることは次善策たりえてもやはり望ましい解決のあり方ではありません。)

虐待をなくすためにどうするべきか

上記のような背景から、やはり虐待の予兆が生じてから事後的に対応することも、児童相談所の職員を件数の数に合うように増やすのもやはり難しいように思われます。

また、そもそも虐待が発生しかけている時点で子どもの福利は損なわれているという観点から見ても、虐待のそもそもの原因となる課題を一つ一つ取り除いていくことが最重要だと思われます。

では、そのためにどのような制度が整う必要があるのでしょうか。
日本の福祉サービスは、概して利用者が自ら役所などに申請をすることを前提にしているので、「申請主義」と言われています。

虐待対応はまさに典型ですが、そのあり方には限界があります。申請主義的なサービスのあり方では、保護者の側が後ろめたさを感じてしまったり、もしくは保護者が多忙を極めてたり過度なストレスの中にいると、途端にサービスが届かなくなります。
一歳半児健診や乳児家庭全戸訪問制度のような、行政の方から需要を把握しにいく制度が整う必要があります。

上記と合わせて、各機関の連携は不可欠です。
先ほど、医療機関でも虐待通告をためらう方が多いという例をだしましたが、その背景には守秘義務違反にならないことなど虐待通告に関する知識が乏しいことがありました。
しかし、もっとも通告をしやすいのが、子どもと触れ合う時間の多いこうした機関であることも事実です。
医療機関にせよ学校教員にせよ、資格が伴うものであればなおのこと、免許の履修過程や研修の際にこうした知識が伝えられるべきです。

また通告だけでなく児童保護の機能や保護者への指導の機能も他の機関が担えるようにならなければ、児童相談所職員の疲弊は改善されないでしょう。

一番の問題は機能の一極集中で、それは早急に改善されなければなりません。

警察との連携強化も叫ばれていますが、警察との連携を強化することには慎重であって良いはずです。
この場合の連携が必要とされるのは、虐待の疑いが生じた後の「立ち入り調査」や「一時保護」の場面です。しかし、警察主導の捜査となれば刑罰が念頭に置かれてしまいます。

もちろんそこで比較衡量されているのが「子どもの身体と生命」というかけがえのないものであることを踏まえれば致し方ない部分もあります。
しかし、保護することや処罰することだけではなく、家族の機能回復が一番の目的であることを考えるとこうした強制的な介入が最良の手段とも言えません。

処罰的な手法を取るのではなく、福祉的観点を持ったまま虐待をなくすことを目指すのであれば、
虐待が生じている家庭の孤立、児童相談所の多忙を解決することが最良の解決策と考えられます。

特に家庭の孤立を防ぐことは重要です。
Learning for All の拠点に通う子の家庭でも、本当にギリギリの生活をしながら子どもを育てているご家庭があります。

多くの家庭で、子どもの幸せを願いながらも、子育てがうまくいかないことにイライラしてしまったり不満が募ってしまったりという保護者様の声を聞きます。
そうした時に「この拠点(LFAの拠点)以外で相談する場所があるか?」と聞くと、「ない」という答えが返ってくることも多いです。

居場所拠点では、例えば毎月の便りに子どもとの付き合い方、手頃な料理の作り方、拠点での子どもの様子を記したりしています。また、迎えに来た保護者様と話して実際に悩みを聞いたり、一緒に愚痴をこぼしたりもしています。子育てのストレスや悩みは一人で抱えるにはあまりに重いです。
ストレスとうまく付き合ってもらうことや子どもの成長を言葉にして伝えることで、虐待の要因となるような子育てからくるストレスは大きく減ります。

保護者様からは「子育てを一人でやらなくてもいいんだと思えるようになった」など前向きな言葉をいただくこともあります。
私たちの拠点がもしかしたら未来に起こりうる虐待の予防になっているかもしれません。

しかし、それは決して私たちだからできることではありません。
私たちのような団体が活動していない地域でも、家庭の孤立を防ぐことは可能です。
地域で感じる小さな違和感を忘れずにいること、
学校や地域単位で行われる活動に積極的に参加すること、
些細な心がけによって、地域から孤立する家庭が少しでも減ることを願います。

最後に〜私たちがしてはいけないこと〜

虐待報道のたびに、テレビに出ているコメンテーターが言うのを耳にします。

「信じられない。」
「理解できない。」
「考えられない。」
「ありえない。」

実際に虐待を経験したことがない人にとっては、ごく自然な態度かもしれません。
そして、心の中ではその態度をとってしかるべきであるとも思います。

しかし、こうした心理的態度をとることと、それを表出しないこと(もしくはそれを表出しつつも理解しようと努めること)は両立します。

「いかなる事情があっても子どもへの虐待に走ってはいけない」という信念を持ちながらもなお、それを当事者に対して押し付けず実際に起きた虐待事件について当事者の背景を慮ることは可能です。

まるで「ありえない」ような事件が起きるに至った過程、保護者の孤立や苦悩の背景を理解しようと努めないのであれば、こうした言葉は当事者達を追い詰める冷たい言葉としてしか響きません。

事件がなぜ起きたかの検証、そしてその要因たる構造を改善すること。
それは小さな違和感の通告から、法律の改正まで大小様々ですが、
いずれにせよそれらを1つ1つ進めていくことでしか、虐待をなくすことは望めません。

孤立が虐待を生みます。
少なくとも、虐待のニュースを非難のためだけに消費するような態度からは、問題の解決には決して向かわないはずです。
孤立を促すことは決してやってはいけないことのはずです。

社会からすぐに虐待は無くならないでしょう。
また近いうちに似たようなニュースが世間を賑わせるかもしれません。

それでもいつか社会から虐待をなくすことができるのか、
それが虐待のニュースのたびに問われているのではないでしょうか。

参考文献
川崎 二三彦「虐待死 なぜ起きるのか、どう防ぐのか」岩波新書
川崎 二三彦「児童虐待ー現場からの提言」岩波新書
東京都福祉保健局少子社会対策部子ども医療課「 新生児訪問とこんにちは赤ちゃんの協働に向けて
厚生労働省「児童福祉司の概要」
厚生労働省「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」
文部科学省「児童虐待への対応のポイント
大田区「児童虐待対応マニュアル」


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