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【更生保護の日に考える「生活の困難と少年犯罪」】

2019.7.1

【更生保護の日に考える「生活の困難と少年犯罪」】

みなさん、こんにちは。Learning for All 職員の福田です。
本日7月1日は更生保護の日と呼ばれ、犯罪を犯した人の更生を社会的に擁護することを求める日です。
そこで今回は、少年犯罪と貧困、そしてその周辺の問題について考えてみます。

犯罪に対するまなざし

私たちの社会は少年犯罪を含む犯罪にどのようなまなざしを向けているでしょうか。
特に最近はテレビやネットニュースなどを見ていると犯罪事件などが多いように感じられます。しかし、実際はどうでしょうか。犯罪白書によれば、犯罪の認知件数は平成14年に頭打ちとなって以降、減少の一途をたどっています。

(出所) 法務省「平成29年度犯罪白書」より引用

少年犯罪も同様に長らく減少傾向にあります。


(出所) 法務省「平成29年度犯罪白書」より引用

しかし、実際の数と世間から見た印象には関係がないようです。犯罪の認知件数が減っている期間でさえ、日本の治安に関する印象は「悪くなった」が大半を占めます。
さらに興味深いのは、「日本の治安」ではなく、「(自分が住んでいる)地域の治安」について印象を聞くと、治安の悪化を感じる人は非常に少なくなるのです。

(出所)公益社団法人 日工組社会安全研究財団「犯罪に対する不安感等に関する調査研究ー第6回調査報告書ー」より引用

このことから、地域全体の治安と日本全体の治安について見解が全く一致しないことがわかります。下のグラフから読み取れるように身の回りでは治安が悪くなったと感じないのに、日本全体では治安が悪くなっていると考えてしまう人が大半であることがわかります。
犯罪認知件数が減少し、実際に身の回りでも治安の悪化を感じないにも関わらず、「日本の治安は悪くなっている」と感じる人が多いのは非常に興味深いです。

では、特に少年犯罪はどのようにみられているでしょうか。同じアンケートで、少年犯罪に対する印象が調査されています。
「少年の犯罪・非行が悪質になっている」と答える人の割合はどの時期をとっても高く、少年犯罪の厳罰化を希望する人の割合は「どちらかといえばそう思う」まで含めると依然高いままです。

(出所)公益社団法人 日工組社会安全研究財団「犯罪に対する不安感等に関する調査研究ー第6回調査報告書ー」より引用

「少年犯罪は悪質になっている」と思う人が大半であり、取り締まりを強化すべきだと考える人も同様に大半を占めます。

しかし、これもまた事実とはずれがあります。一部の凄惨な事件(それも、以前から類似の事件が起きていたはずの事件)がまるで過去に例を見ないような犯罪として報道されてしまうことで全体の印象が悪くなっていることは否めません。そして、
その帰結として犯罪行為に対する眼差しが冷たいものになることは想像できます。
少年犯罪のほとんどは窃盗などで凶悪犯罪とみなされるものではなく、人口比で見てもずっと減少傾向にあるという事実は理解しておかなければなりません。

(出所) 法務省「平成29年度犯罪白書」より引用

非行・犯罪の原因としての虐待・貧困

では、実際の非行の原因は何かを考えてみますが、何が非行の原因なのかを特定するのは非常に難しいです。犯罪の原因については1つに断定できるものはなく、学説上も議論がわかれています。とはいえ、様々な要因があって初めて犯罪行為に至るのであり単一の原因が犯罪行為に走らせることはほとんどないというのが一般的な理解です。
とはいえ、いくつか社会的な要因があると考えられています。
例えば、貧困率と殺人事件発生率には相関があります。

(出所)「犯罪・非行の社会学」より引用

失業率にも相関があり、実際に少年院に入る子どもの半数以上は、(学生・生徒を除いても)無職です。

(出所) 法務省「平成23年度犯罪白書」より引用

また、非行をした少年少女の多くは家庭の内外で虐待被害を受けています。

(出所)安部計彦「子ども虐待と非行の関係」より引用

はっきりしているのは、こうした社会的なデータと犯罪率の相関が強いということは、犯罪はその人個人の特性によるものではなく、社会的・地域的・家庭的な要因で生じるものがほとんどだということです。
その意味では、犯罪・非行を犯した人に「前科持ち」のようなレッテルをあてがい、「自分たちはとは違う存在だ」「自分たちこそが普通である」と無意識に安心感を得ようとするのは、あまりに想像力に欠ける行為ではないでしょうか。

更生保護制度

さて、非行をした少年のその後はどのようなものでしょうか。
ごく単純に説明すると、検挙された子どもは大きく、
①不起訴処分や無罪など、罰則を受けない
②裁判をへて直接「保護観察」に移行
③少年院・刑務所をへて、そのあと「保護観察」に移行
の3つの道のいずれかを辿ります。

保護観察では社会への復帰を助けるために、生活環境の調整や就労支援、生活指導、治療などが行われます。
例えば、薬物依存の方には依存症治療を施したり、出所した後に就職できるよう学習の支援やビジネスマナーの訓練などが行われたりもします。
しかし、その支援はどれだけ功を奏しているでしょうか。
例えば、就労支援を例に考えてみます。平成29年度では、少年院を出所した人の就労状況は下のグラフの通りです。

(出所)「平成29年度犯罪白書」より引用

「就労支援なし」が多いことはそもそも就労する年齢でない子どもが多いことが要因として推測されますが、就労支援を受けている人の中でも「内定なし」の人が多いことがわかります。

実際に、
少年院や少年刑務所を出所した少年の4割近くが再犯を犯してしまっていることが、更生保護の機能不全を証明しています。

(出所) 法務省「平成28年度犯罪白書」より引用

「犯罪歴がある」という理由から就労しにくい事情には一定の理解は示せます。しかし、その犯罪の背景はその人に帰責できるものではないかもしれませんし、そもそも社会復帰への擁護をしないことにも意味がありません。
さらには、上でもみたように貧困率や就業状況が犯罪と相関するのであれば、一度犯罪を犯した人に就業の機会を与えずにいるのはさらなる犯罪を引き起こすことにもなりかねません。こうした負のスパイラルを食い止めることが社会に求められているはずです。
この問題の背景をみると、制度的な問題もまた見えてきます。

例えば、保護観察を行う機関の充実度です。保護観察を行う役職には、保護観察官と保護司の2種類があります。主たる責任は保護観察官にありますが、保護観察官を補佐する保護司は民間のボランティアによって担われており、数の減少だけでなく高齢化も問題とされています。

(出所) 法務省「数字で見る保護司制度」より引用

保護観察を行う機関に十分なリソースがないことも犯罪歴を持った少年の社会復帰が実現されていないことの要因の一部として考えられます。

さらに、就労の協力雇用主に関しても課題は見られます。下のグラフにあるように、実際の出所者(これは少年に限りません)を雇用する協力雇用主の数は増えているものの、全体の協力雇用主のうちわずか4%にとどまっていることがわかります。

(出所) 法務省「平成29年度犯罪白書」より引用

最後に

犯罪行為の原因を本人ではなく環境に求めること、犯罪行為を罰することと、そこから立ち直る手助けをすることは、全て両立する行為です。
社会の眼差しを改め、更生の保護のために必要な制度を整えることが、貧困の再生産を止め、分断のない社会を作るために必要なことではないでしょうか。

そして、そのためにはまず非行や犯罪の背景には社会的な要因があることを理解し、非行や犯罪へのまなざしを私たち一人ひとりが改めなければなりません。

学習支援や居場所支援をしている私たちLearning for All も、私たちの支援の場を社会の分断の縮図にしてはならず、非行に走る可能性のある子どもや若者に対しても開かれていなければならないと考えています。

参考文献
ー 岡邊健 編「犯罪・非行の社会学」有斐閣ブックス
ー 松本勝「更生保護入門」成文堂
ー 鮎川潤「少年非行」放送大学叢書
牧野智和「少年犯罪報道に見る『不安』」
法務省「犯罪白書」(各年度)
安部計彦「子ども虐待と非行の関係」
法務省「数字で見る保護司制度」
公益社団法人 日工組社会安全研究財団「犯罪に対する不安感等に関する調査研究ー第6回調査報告書ー」

 

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