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【子どもの貧困と生活習慣】〜「自己責任」で失われるもの〜

2019.10.21

【子どもの貧困と生活習慣】〜「自己責任」で失われるもの〜

こんにちは、Learning for All 職員の福田です。

Learning for All では、かねてより学習支援と居場所支援を通じて子どもの貧困の解決に取り組んできました。
子どもの貧困を解決しなければならない理由の一つは、その貧困がループするということです。

例えば、年収が学力へ、学力が学歴へ、学歴が年収へ、年収が子どもの学力へ、と影響する点で「学力」を媒介にした循環は非常に想像しやすいです。学習支援はその循環を食い止める手段の1つになるでしょう。
しかし、貧困の連鎖は何も「学力」を通してのみ生じるものではありません。
今回はその一例として、貧困と生活習慣、健康の関係について考えていこうと思います。

健康とは何か

WHO(世界保健機関)によれば、健康の定義は以下の通りです。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」(日本WHO協会訳)
この定義で重要なのは、身体的なものに限らないということ、そして「病気でない」という消極的な定義ではなく「良好である」という積極的な意味づけがなされているということです。

この定義に従えば、健康診断で何も異常がないような状態だからといって「健康」とは言えないわけです。
例えば、毎月貯金の残高を心配しながらなんとか家計をやりくりする状態も、家族との付き合いがうまくいかずに不満を抱えている状態も、それだけで「健康ではない」のです。

健康を確保するということは、病気を取り除くことや予防することではなく、その人を悩ませ続けるものを取り除くことさえを意味しているはずです。
人が健康に過ごすとは「心身ともに」満ち足りた状態の中で生きることであるという前提は、忘れてはなりません。

とはいえ、そのようなWHOの健康の定義に忠実に従っている統計データは多くありません。
今回は、「健康」の一般のイメージに合うように「健康=身体的に病気でないこと」と狭く消極的に定義して、健康と貧困の関係を考えていきたいと思います。

「生活習慣」と健康の関係性

病気や健康がいかに社会のあり方によって左右されるかを示すデータは挙げればきりがありません。

例えば、教育水準と乳児死亡率は強い相関関係を示します。
グラフを見ていただけるとわかるとおり、初等教育の就学率が高いほど乳児死亡率が低いことがわかります。
(もちろん前者が後者に影響しているというわけではなく、社会のあり方と構成員の健康とは大きな相関を持つという一例です。)

(出所) 武藤正樹「”脱病院”で始まる地域医療福祉入門」より引用

社会の抱える課題や社会のあり方と病気とは密接な関係にあります。
そして、「医療水準」や「公衆衛生」などのように両者を媒介している要素の1つが「習慣」です。

例えば、食文化によって死因となる病気のワーストは大きく異なります。
日本では「がん」といえば胃がんがポピュラーですが、欧米では大腸ガンなどの方がポピュラーだったりします。

(出所) 味木和喜子、津熊秀明「固形癌の疫学 固形癌の地域・人種差」より引用

日本人にとって「胃がん」をポピュラーたらしめているのはその塩分摂取量です。人間の健康のために必要な1日の塩分摂取量は1.5gと言われていますが、日本人はその7〜8倍の塩分を摂取しています。

健康に影響する様々な「習慣」の要素(睡眠、ストレス、食事、喫煙、飲酒、労働状況…)はたくさんあります。
その中でも「食事」に注目すると、貧困と健康がいかに関連するか見えてきます

貧困と食習慣

もちろん個々人の趣向の違いによって食習慣が決まる部分はありますが、食習慣は家庭の経済状況によって規定される要素が大きいです。

コンビニやスーパーで買い物をしていてもわかりますが、やはり炭水化物に比べて肉や野菜は非常に高いです。
100円もあれば大きめのコッペパンやスティックパン、もう少しお金を出せばカップ麺などが買えますが、その値段では小鉢ほどの大きさのサラダや、野菜であれば根菜くらいしか買えません。

安くお腹を満たすことを考えると、ついつい炭水化物ばかりに手が伸びてしまいます。

もちろん経済状況に関係なく、炭水化物が好きな人は多いでしょう。
しかし、お金に余裕があればそれに合わせて肉や野菜を食べられますし、実際にバランスを考えて野菜を一品購入するという人も多いのではないでしょうか。

「乳幼児栄養調査」によれば、世帯年収と野菜や肉類の摂取量には相関があります。
グラフにもあるとおり生活にゆとりのある方が、ない方よりも野菜や果物、大豆、魚の接種率が高いことがわかります。

(出所) 武藤正樹「”脱病院”で始まる地域医療福祉入門」より引用

経済的に厳しい家庭ほど野菜や肉などのバランスのとれたメニューをとれず炭水化物中心の食事になる傾向があります。

実際に、Learning for All の居場所拠点に通う子どもの中にも、家庭環境の影響で偏食が激しく、通い始めた当初は野菜類をほとんど食べなかった子もいます。

炭水化物中心の食事は糖尿病のリスクを高めます。
全日本民主医療機関連合会は、全国の医療機関96施設で40歳以下の「2型糖尿病患者」は世帯年収200万円未満が57.4%を占めていると報告しています。(リンク)
世帯年収200万以下の世帯は世帯全体の22%にすぎません。年収の違いが食事の偏りに、食事の偏りが健康を害する結果に繋がっていることは明白です。

年収の低さが食生活の偏りを生み、それが健康への悪影響をもたらすことで貧困から抜け出せなくなる、ということは十分に考えうる事態です。

また、アルツハイマーなど認知症も生活習慣の悪化により生じる可能性が高まることが医学的にも証明されています。
例えば子ども自身がならなくても、子どもが社会人として働き始める年齢になった時に親世代が認知症を患う、ということは特に貧困世帯において大いに考えられます。

安易に健康を「自己責任」と片付けることが難しいと言えるはずです。

「生活習慣」病と自己責任

年収や性別、国籍など、多くの属性・特性によって人の生き方が規定されてしまいます。
そのうちいくつかの「本人にはどうしようもないもの」については、不平等の解消が提唱されたり、公的な是正措置が検討されたりします。

しかし、「本人にはどうしようもないもの」の線引きは非常に曖昧なはずです。
例えば、私たち Learning for All が設立当初から課題意識を置いている「学力」も、”勉強という努力ができたか”という観点だけで見てしまえば確かに「自己責任」です。
ただその努力も、丁寧にひも解けば、保護者の経済能力や収入、地域、居住地域などさまざまな要因に規定されます。

背景にあるものを考えることで、私たちは問題がそれほど単純ではないことに気づけるはずです。

では、「生活習慣」や「健康」はどうでしょう。

「生活習慣」や「健康」は、ともすれば「学力」や「学歴」よりも強く自己責任によるものであると考えられがちです。
ですが、そう考えがちであるからこそ、私たちの誰もが弱い立場の人から静かに健康が奪われる現状に加担しかねないのです。

例えば、誰しもが知る「生活習慣病」という言葉があります。(先に例に挙げた糖尿病も生活習慣病の1つです。)
この「生活習慣病」という言葉は「生活習慣に気をつけないと病気になる」という重要な警告の意味を持ちます。

しかし警告の意味と同時に、「病気になってるやつは生活習慣がなってないやつだ」とレッテルを貼る機能も持ってしまっています。

心のうちでどこか、「生活習慣病になっている人=だらしない人」と考えてしまってはいないでしょうか。
糖尿病の半数以上が年収200万以下であることを知った今、その態度に違和感なくいられるでしょうか。

最後に

小説家の平野啓一郎氏はNHKの番組でこう述べています。

「生活習慣と言われたら、健康=自己責任と考える人が多くなるのも不思議はありません。(中略)僕が恐れているのは結局、真面目に自己管理をやった人たちは、自己管理ができていない人たちに対して『自己責任』ということで、余計に厳しく当たってしまうようになるんじゃないかということです。」

「自己責任」の風潮を許容するということは、弱い人たちから順番に追い込まれていく社会を許容するということです。
安易に自己責任論に走る姿勢には、毅然とNOを示すべきではないでしょうか。

私たち Learning for All では、特に居場所支援拠点において手洗いやうがいをはじめとした生活習慣の指導も行なっています。
そこではもちろん食事も提供し、バランスよく栄養をとることができるよう配慮しています。

貧困は日常にある様々な、そして些細な要素から子どもに連鎖します。
生活習慣や健康を介して伝わる「一見わかりにくい」貧困の連鎖に対しても、私たち Learning for All は取り組んでいきたいと思います。

参考文献
ーNHKスペシャル取材班「健康格差」講談社現代新書
ー川上憲人、橋本英樹、近藤尚己「社会と健康」東京大学出版会
ー羽生春夫「生活習慣病と認知症」
ー味木和喜子、津熊秀明「固形癌の疫学 固形癌の地域・人種差」
ー鈴木傾城「日本の貧困層は飢えずに太る。糖尿病患者の半数以上が年収200万円未満の衝撃」

 

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