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【寺子屋実践録】中学3年生Aくんのケース(前編)

2018.11.21

 こんにちは。Learning for All職員の市川です。
今回から不定期で、これまで私が学習支援事業を通して関わってきた子どもとのエピソードを紹介していきます。

わたしは大学1年生のときに学習支援事業のボランティアとして参加し、その後そのまま職員になりました。これまでに複数の拠点で教師や現場スタッフを務めていました。(以前のインタビュー記事も合わせてご参照ください。)
今回は、ある拠点で現場責任者をしていたときに出会ったAくんとのエピソードを前編・後編の2回にわたって紹介します。


 寺子屋(わたしたちの学習支援の拠点)を卒業してしばらくして、高校生になったAくんが拠点に遊びにきたことがある。「今日寺子屋ある曜日だから、先生もいるかと思って。」すっかり着慣れた様子の制服姿からは健康に高校生活を満喫していることがわかり、突然現れたことへの驚きよりも嬉しさが溢れた。

「もともとは専門学校行こうと思っていたけど、大学で取れる資格取っておいた方がいいんじゃないかって高校の先生が教えてくれたんだ。奨学金も調べてるところ。すげーめんどい。」Aくんは笑いながらそう話してくれた。久しぶりに会ったAくんが話す近況からは、彼が自分自身の目標に向かって適切に周囲の人に頼りながら努力を続ける姿が見えた。この社会の中でAくんは自分の可能性を信じ、自分の力で人生を切り拓いていっている。話した時間は短かったが、高校に入学してAくんが豊かに成長していることを感じることができた時間だった。

 Aくんの家庭は生活保護受給世帯で、お母さんと2人で暮らしていた。お母さんは仕事を複数掛け持ちしており、Aくんとゆっくり話ができるのは週に1日だけだった。それでも毎日お母さんは夜ご飯を作っており、時間が遅くなってもこちらからの連絡に丁寧に対応してくれる方で、仲の良い親子だった。Aくんは、ケースワーカーの紹介で寺子屋に通いはじめた生徒だった。「気づいたら通っていた。塾みたいなものだった。」高校生になってから、Aくんは当時を振り返りそう言っていた。

 わたしがAくんと関わっていたのは、Aくんが中学3年生の2学期から彼が中学校を卒業するまでの半年間だった。授業の休み時間に、寺子屋に通っていた中学校の後輩たちに囲まれながらスマートフォンでゲームをしていた姿をよく覚えている。賢く、遊び心があり、適度に抜けている部分もある彼は、後輩たちにも寺子屋に参加する大学生にも慕われていた。中学校では学級委員をやっていると聞いたとき、なるほど確かに向いているのだろうと感じた。

 中学3年生の2学期というと、高校受験に向けて追い込みをかけ始める時期であるAくんは将来やりたい仕事があり、その勉強ができる高校を目指していた。大学進学は考えておらず、高校のあとは専門学校で資格を取りたいと言っていた。わたしも過去にAくんの目指している高校の文化祭に行ったことがあったが、生徒たちが主体的に学校生活を満喫している姿は、Aくんによくあっていると感じた。そうしてわたしたちは、彼と志望校合格のために一緒に努力する仲間になった。

 しかし、合格までの道のりは遠いものだった。2学期が終わった段階で、Aくんの成績は合格基準にまったく届いていなかったのだ。Aくんは金銭的な理由で塾には通っていなかったため、学校が休みになる冬休みからはAくんの受験に関する支援のほとんどを寺子屋が担うことになったAくんの授業に関して、特に気をつけていたことが3つある。

①志望校の合格ラインまで学力をあげること
②教育的な目線と福祉的な目線でAくんに接すること
③必要に応じてお母さんへのサポートも実施する

以上の3つだ。

 まず何よりも、志望校の合格ラインまで学力を上げることが必要だった。入試までの2ヶ月で合格ラインまで学力を上げるために、入試の傾向・Aくんの得意不得意だけでなく、単元あたりどれくらいの問題量をどれくらいの期間をかけて演習すれば定着するのかを分析し、効率効果を追求したカリキュラムを担当教師とともに作成した。さらに、1週間の学習計画をAくんと相談しながら作成し、週に1回は学習計画の振り返りのコマを取ることにした。時間に余裕はなかったため、毎回の指導の質をあげるための指導準備にもこだわった。自作教材の作成や、指導でつまづきそうな部分に対して事前に対応を決めておくといった準備を通して、徹底して無駄な時間を省いた授業準備を担当教師とともにすすめていった。

 

 効率効果にこだわる一方で、Aくんが精神的に落ち着くための時間は必要に応じて必ず設けることにしていた。三者面談で志望校合格は難しいと言われたたときも、志望校の推薦入試に落ちたときも、Aくんは寺子屋に来てすぐに自分の気持ちをとにかく一気に話し続けた。わたしたちはそれを止めずに、カリキュラムが遅れることになろうと彼が落ち着くまで話を聞き続けた。Aくんは人と話すことがストレス発散になるようだったが、冬休みになり学校が休みになってからはコミュニケーションを取る相手がお母さんと寺子屋の教師だけになった。お母さんとAくんは仲が良かったが、お母さんは仕事が忙しいため、ゆっくり話ができる時間をつくることが難しく、Aくんもお母さんの負担になりすぎないように、話す内容を選んでいるようだった。Aくんの居場所機能も寺子屋が担う必要があった毎回、ひとしきり話した後は「絶対一般で受かってやるから勉強頑張る。」そう言ってAくんは勉強に戻っていった。「家にいても誰もいないから、ここで勉強してていいならもうちょっと勉強していく。」授業後に残って勉強していくことも度々あった。本来は週に1〜2回しかやっていない寺子屋だが、当時「家では勉強に集中できる空間がないから試験前だけでいいから毎日寺子屋やってほしい」という希望が他の生徒たちから出ていたこともあり、高校入試まで1ヶ月は自習室として毎日寺子屋を実施した。夜には、教室で自分で持ってきたご飯を一緒に食べて勉強することもあった。塾の冬季講習のように、年末年始には朝から晩まで授業を実施していたこともある。「30日まで勉強してたのに、4日からまた勉強って頭おかしくない?」と言いつつ、Aくんはきちんと毎日出席していた。「どうせお母さんも仕事だし、友達も塾だから。」そう呟く姿を見ることもあった。


前編はここまでになります。
いかがでしたでしょうか?
後編は、11月26日投稿予定です。お楽しみに。

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